Memory:白星蓮華
その日の夜。
カフェイン剤を摂取し、寝ずの番をしようとしていた私の元に横になっていた白星が近付いてきた。
顔色は余り良いとは言えないものの、表情は民家に入る前よりは暗く見えない。
……んー、これは私が昔話をした時と同じ流れかなぁ。
壁を背に、すぐにでも動けるようにしつつ座り込んでいた身体を起こし、彼女の肩を支えながらソファへと座らせる。
その横に腰を掛け、
「体調は?大丈夫?明日になったら拠点に戻るのだって出来るけど」
「大丈夫……これ、別に体調を崩したとか、病気になったとかじゃないから……」
「……そう」
声が止む。
既に電気が通っていない為に、この民家内を照らすのは私が取り出したランタンの灯りのみだ。もっと明るくする事も出来るが……それはそれで、サバイバル的な風情が無くなってしまう為、私はあまり好きではなかった。
【空間収納】内から2人分のコップと、キャンプ用のシングルバーナー、ケトルを取り出し、水を生成して火にかける。用意するのは……適当に、ココア辺りで良いだろうか。
……家の中ってのを考えるとちょっとシチュエーションが違うのかもしれないけど。こうやって暖かい飲み物を用意するのも良い経験だよねぇ。
五十嵐と行動していると、彼女が全て用意してしまうし……何なら、私が倉庫の中に放り込んでいる魔法瓶なんかを見つけ出して使ってしまう為、キャンプやサバイバルというよりピクニック感が強いのだ。
そんな空気を、私が1人密かに楽しんでいると。
「……その、ね?」
「ん?」
「この辺り、元々私が住んでた場所だったの」
白星がぽつりぽつりと話し始めた。
私は彼女の語りを邪魔しないよう、バーナーの火を消し無言でそれぞれのコップへとお湯とココアの粉を入れ、静かにかき混ぜる。
「知ってる?この辺りって、秋山工業が実質的な地主というか……支配者?独裁者?みたいな事をしてたのよ」
「へぇ、それは知らなかったかな。……現代で、独裁者、ねぇ」
「実質的なね。秋山に逆らうとここで生きていけない、薬を取り扱ってるから他に行っても薬を買う事も出来なくなる。現代でそんな事をされちゃったら……」
「厳しいね、流石に」
聞き覚えのある名前が出てきてしまった。
とは言え、そこまで驚きはない。以前、秋山の製薬工場を探索した時のゾンビの多さや、現場にあった薬の内容を見ればある程度予想は出来てしまうものだからだ。
……ここら辺から希望者か……それとも、無理矢理にでも人を引っ張って来て、あそこで実験とかかな……。流石に人道的じゃないけど……でもあのお嬢様の態度的になぁー……。
もう死んでしまった顔を思い出しながら、荒唐無稽ではあると普通だったら考えてしまう思いつきに真実味が出てきてしまう状況に少しだけ辟易する。
「そんな場所で育った私は……まぁ、身体が弱かったわ。それも、定期的に入院するくらいにはね」
「今はそんな感じはなさそうだけど?」
「何かされてたんじゃないかしら?初めは本当に身体が弱かったのかもしれないけれど、途中から薬の実験として少しずつ投与されて……とか。無いとは言い切れないもの」
彼女は出来上がったココアに口を付け、少し息を吹きかけて冷ましながら、
「当時は地獄だったわ。決して安くはない私の治療費を稼ぐために仕事一辺倒になる父親。何か琴線に触れちゃったのか秋山の事を神みたいに崇拝し始める母親。そんな2人が、私に気が付かれない様に表面上は仲良く病室にお見舞いに来るのよ?」
「……」
「それに、私も私で子供ながらにそんな状況をどうにか出来ないかって医者に頼んじゃったのよ。……今だから思うけれど、絶対に頼んじゃいけない相手にね」
一息。
ココアを一口、二口ほど再度飲み、彼女はまた溜息を吐いて。
「秋山の息が掛かった医者が、患者から『なんでもするからたすけてほしい』なんて言われてしまえば……その後は地獄だったわ」
語られていく内容は、正直人への情が薄くなってしまった私でもあまり聞いていたいとは思えないモノだった。
試験薬の非合法的な投薬から始まり、人体実験的な身体能力の研究。
他にも、彼女の身体には多くの……非常に多くの消えない傷跡が残されていた。プライベートな場だから、彼女があまり良い顔をしないからと、風呂等を共にしていなかったからこそ今まで気が付けなかったそれら。
彼女は語りながら、それらを話し、見せ、
「この力だって、世界がこんな事になる前から使えたのよ?周りは超能力だ、人類の進化だなんだって騒いでたけど……全然嬉しくなかったわ」
彼女のもつ収納系の異能、【接触式生物収納】。
他の異能とは命名の仕方が少し違うな、とは思っていたものの……恐らくこの名称は、当時白星が力を発現させた時に名付けられたものなのだろう。
……異能の発現、ねぇ。それに白星ちゃんの体質は……どう考えても、どっかのタイミングでゾンビウイルスに関係する何かが絡んでそうだけど。
ウイルス蔓延前の異能の発現と、ゾンビウイルスへの耐性。
彼女は秋山による非合法的実験の結果だ、と今語ってくれたが……本当にそうだろうか?
だとすれば、秋山がこの世を終末へと変えた黒幕となってしまうが……何かが引っかかる。
「秋山だけがその実験に参加してたの?……こうやって依頼を受けてると、生きてれば出会う可能性だってあるからさ」
「いいえ?色んな企業だったりが居た筈よ。クリーンな製薬会社なんて……記憶にないわ。他だと……なんだったかしらね。確か日本の神様みたいな名前の研究所も参加してたかしら」
「ふぅん……?まぁ注意しておこうか」
と、ここで白星が大きいあくびをしたのを見て軽く笑う。
「ほら、今日はここまでにして、白星ちゃんは眠っちゃいな。トラウマがある様な場所でも……明日には通り過ぎちゃうからさ。……本当に帰らなくて大丈夫?」
「大丈夫。……おやすみなさい」
「おやすみ」
ソファに横になるのを邪魔にならないよう退きながら見届けた後。
私は元居た場所へと戻り、寝ずの番を再開する。
……私が少し前に話したから、今回話してくれたのかなぁ。それだったら結構いいけれど。
久々にA.S.S経由で、白星の住人としてのステータスを表示させる。
好感度自体は高い……のだが。何故かまだ、彼女の好感度は100に至っていないのだ。
この状態で住人化出来ている現状も、彼女の持つ異能を私が持てているのも理由が分からない。A.S.Sにも原因が分からないと回答されている。
「……」
こうして、私が寝ずの番をしているのもこれが理由だ。
好感度が100に、上限にまで届かないという事は……何かが理由で、こちらに不信感や何かしら胸の内に思う事があるという事。
仲間として背中を預ける事が出来るかと言われればイエスだが、その上で無防備な状態を晒せるかと言われれば……現状ではノーとしか言いようがない。
故に、彼女を未だにチョーカーで縛っているのだから。
……これも、今回話してくれた内容と関係あるのかなぁ。
だとしたら。
また、何処かで……秋山とはぶつからねばならないのかもしれない。
そんな事を考え、周囲へと気を配っているうちに時は経ち、陽は昇る。
時間は遡ろうと、私が答えを出すまでは待ってくれないのだから。




