アポリアの彼方外伝【MaQ計画外典】―実験者の独白―
第一章:観測される意志
「信念とは何か?それを観測しようとした瞬間、我々は“魂”を定義してしまった。」
実験No.001:意志検出実験
入力:被験者Aの瞑想状態(持続15分)
出力:電磁場異常値 +13.2%(対照比)
結論:意志は確かに場をゆがめる。
第二章:意味を孕む波
Ψ_b。それは祈りか、叫びか、それとも意味を持った沈黙か。
波動関数 Ψ_b(x, t) = Σ cₙ φₙ(x) e^(−iEₙt/ħ)
被験者Bの感情変化により cₙ は約0.85〜1.3まで揺らいだ。
この関数は意志の可視化であり、魂の干渉が数式として現れる唯一の手段となる。
第三章:素粒子への還元
MP――Meaning Particle。
詩人が語る“言葉のかけら”を、我々は物理量にしてしまった。
MP質量(仮):2.3 × 10⁻³⁷ kg(実験No.017による理論値)
生成確率分布:P(MP|Ψ_b) = |Ψ_b|² × μ(意味共鳴定数)
意味を持つとは、重さを持つということだった。
第四章:魔素子生成
Magion。魂の断片か、技術の傲慢か。
MaQ試作炉において初の共鳴反応:被験者Cが「名前」を呼んだ瞬間にMP出力が14%上昇。
「名」が意味波動を媒介し、粒子構造へと転移する現象が観測された。
第五章:共鳴のノイズ
「詩的干渉」と名づけられた現象は、記録不能な真実だった。
実験No.042:被験者Dの詩読唱によるフィルター干渉実験
結果:MP測定波が乱流化。測定不能時間 2.6秒
詩的共鳴は、意味の重なりによる干渉縞を形成する。
第六章:ソウルパイプ設計記録
設計理論:魂導波構造(Soul-Waveguide Model)
トポロジー:π型三層共鳴接続
失敗記録:実験No.058 被験者Eの人格分裂。
副人格比率:42%主魂/58%副魂(非安定)
観察結果:分裂ではなく、共鳴位相のズレによる「意味の二重化」現象。
第七章:試作機稼働記録 v0.91
稼働地点:エルテリア都市圏 中央共鳴塔
通貨単位:1 Empa(Empathy Point) = 平均感情出力1.0ΔΨ
初期配布:1200名 被験市民の感情測定 → 通貨換算
平均所持Empa数:274.6
感情=貨幣が可能になった瞬間、人類は“演技された感情”に移行した。
第八章:崩壊の閾値
臨界記録:ΔΨ_total > 1.74E7(臨界共鳴値)
被験都市エルテリアにて、魂共鳴強度が爆発的に上昇。
共鳴同期により人格情報が連鎖崩壊し、13名が“意味融合崩壊”を起こす。
魂は裂けるのではない。
意味として分解され、言語として宇宙に蒸発した。
第九章:詩的構文への回帰
詩的構文「Linguapoetica」の導入により、MaQは限定的安定運用が可能に。
例:詠唱文「風は記憶を抱いて名を告げる」
この1詩行により、MP安定値が約42%向上。
詩は魂を刺激し、意味波を安定させる「補完装置」だった。
第十章:禁書指定
第A-109号議決:MaQシステム開発全面凍結。
中央評議会声明「我々は魂の形にまで踏み込んではならない」
記録は『アポリアの書』へ転写され、詩として“魂に還された”。
MaQに宿った罪は、意味の中で眠ることとなる。
※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。