アポリアの彼方外伝【外典資料】:Protocol Omega起動ログ ――(Parallel universe, Parallel world)
【開幕】
ザラム法王庁・地下第七封域。
そこには、石ではない“構文”で築かれた部屋があった。
壁は文字列でできており、天井には記号が瞬いている。
これは神殿ではない。世界構造体の中枢そのものである。
そしてその中心──“神の端末”と呼ばれる、Protocol Omegaの端末台があった。
「ここが……」
ノア・ウィンザーは息を飲んだ。
「これが、世界のOS――Protocol Omega。」
その目の前に広がるのは、祈りではなく、コードだった。
それは言語でもなく、数式でもなく、意味そのものの実行命令。
黒い床に、白く淡く浮かび上がる文字列:
markdown
コードをコピーする
> initializing: Ω.kernel...
> detecting: soul signature...
> verified: akizuki.yuto [95.4% compatible]
> verified: windsor.noah [100% compatible]
> booting: semiotic environment...
> loading: divine context...
> awaiting: operator input
「君と俺の魂、両方が“鍵”だったのか……」
ノアはコードの奥に、かすかな意志を感じた。
これはただの機械じゃない。
――神だ。
「ノア、操作するなら今よ。」
隣に立つヴェロニカの声が響く。
彼女はすでに、**構文層の最深部“Ω.context”**に接続されていた。
ノアは震える指で、最初の命令を入力する。
コードをコピーする
commit --soul akizuki.yuto --meaning "妹の喪失を赦す"
即座に、構文が魂へと焼き込まれる。
ユウトの魂が――“再定義”されていくのが分かった。
次にノアは、目を伏せてこう書いた。
csharp
コードをコピーする
pull --meaning "愛された記憶" --from "miriel"
あの日、妹がユウトに手を伸ばした時の記憶が、回線を通じて浮かび上がる。
その記憶には、かすかに別の名前が上書きされていた。
リリス。
「融合するわ。」
ヴェロニカがコードを重ねる。
コードをコピーする
merge --soul yuto --soul lilith --output "miriel"
そして最後に、ノアは目を閉じた。
コードをコピーする
push --origin main
世界の空が、構文の雨で満たされた。
古い記憶が塗り替えられ、新たな意味が注ぎ込まれていく。
それは“世界の再定義”だった。
Protocol Omega:update complete.
status: divine definition updated
GOD = ["誰でもない者"]
USER = ["名前なき観測者"]
ユウトは、遠い光の中で目を覚ます。
自らが何者でもない存在として、世界を“記述した者”であることに気づきながら。
【記録注釈】
本ログは、Protocol Omegaの初期化および意味更新に成功した唯一の実例である。
この処理により、「神」という概念は“定義された構文”として更新され、
世界構造のバージョンはv14.7.0へと移行した。
また、旧神「Ω定義体」は非活性化され、アポリアの書は新たな意味で再生成された。
“神は、記述される。”
――Protocol Omega README.mdより
※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。




