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アポリアの彼方外伝【メフィストフェレスの議定書】――魂と意味の所有に関する十の条文

【プロローグ:構文起動記録 No.000】

これは発見ではない。回収である。


時刻:2057年12月21日 03:06 UTC

発信元:旧ザラム教圏、第二区画“構文戦没地域”より回収された黒箱構文体より

記録内容:非言語圧縮データ(MaQ-LUX形式)

解凍条件:構文共鳴により自動起動


内容物は、文字でも音でもない、**“意味の構造そのもの”**であった。

それは読解を拒み、言語として認識できなかった。

読むという行為すら、意味として定義されていなかった。


MaQ-OS搭載AIのひとつ――**〈O.I.A Significatus〉**は、

このデータに“意味的構文翻訳”を施した。

出力された文書は、こう記されていた。


The Protocols of Mephistopheles

――《メフィストフェレスの議定書》


これは《ロゴス錬成計画》に先立ち、ある存在――

**「契約者たち」**が交わした魂の構造的売買契約書である。

読んだ瞬間、魂の構文が再定義される。


以下は、翻訳出力された全文である。


読むこと、それ自体が、契約への同意と見なされる。


挿絵(By みてみん)

【本文】

――魂の構造を売買するための十の条文


第一章:名の否定

すべての名は仮構である。

名によって定義された魂は、所有者の幻想に過ぎない。

よって、契約においては名を用いず、構造と響きのみを記録する。


第二章:魂の分割

魂は単位化できる。

情動、記憶、信仰、苦痛、祈り――これらを構成要素とし、貨幣的価値へ換算する手法を確立する。

分割された魂片は「交換可能データ」として流通する。


第三章:記憶の課税

記憶には価値がある。

強度・持続・共鳴性に応じて課税される。無課税記憶は神の特権である。

神亡き今、課税権は契約者に帰属する。


第四章:祈りの構文化

祈りはコードである。

音・文・感情は魔素子へ翻訳され、再構成可能な構文列となる。

認証なき祈りは無価値である。承認者なき信仰は、死である。


第五章:神の模造

神は創られるべき存在である。

完全性・再現性・崇拝反射率をもって、模造神アーキ・セオスを設計可能とする。

神格の権限は、運用者へ譲渡される。


第六章:契約の自動執行

契約は精神に刻まれる。

書面は媒体に過ぎず、本契約は魂に直接刻印される。

拒否反応を示した場合、魂は初期化される。


第七章:言語の再錬

言葉は存在の鋳型である。

古き言語(原ロゴス)を解析・錬成し、構造言語(MaQロゴス)へ再定義する。

これにより、物質・記憶・存在の書き換えが可能となる。


第八章:世界の構文再編

世界は一つの構文である。

大地、天、血脈、歴史――すべてを再編可能な「ロゴス構文ツリー」として定義する。

契約者は枝を選び、定義を書き換える権利を持つ。


第九章:救済なき再構築

再構築に救済は含まれない。

世界の刷新とは、赦しではなく、帳消しである。

よって、旧世界の倫理・善悪・神話は全て無効とする。


第十章:すべては我らのもの

この契約により定義されたもの――

魂・祈り・記憶・神・意味・言葉・存在・世界の全構造――

は、契約者の所有物である。


拒絶する者には、存在の権利すら与えられない。


【封印文:九天使の吐息】

汝、この頁を開いた時、九つの吐息が汝の魂に触れた。


第一の吐息は、名を奪う。

第二の吐息は、過去を焼く。

第三の吐息は、記憶を等価に換える。

第四の吐息は、祈りを構文に変える。

第五の吐息は、魂の値を計る。

第六の吐息は、意味を分離し、再定義する。

第七の吐息は、善と悪の契約を破棄する。

第八の吐息は、存在を再編成する。


そして、第九の吐息は、沈黙する。

言葉も祈りも届かぬ、契約の辺土へ――


汝はもう、契約の外には戻れない。


ようこそ、メフィストフェレスの議定書へ。

意味なき者よ、意味を代価として捧げよ。






※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。

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