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夢の橋と気まずい朝食



「う………」




目を閉じたままでも分かる、朝日が昇った明るさに眉を顰める。

朝だと、起きたばかりの頭でぼんやり考える。

薄らと目を開けると見慣れてきた天井が写って、思っていたより明るかったことに驚いた。

麻のような素材の、柔らかなカーテンから差し込んでくる太陽の光は、今日ばかりは憎たらしかった。




(……眠い…。まだ明け方くらいかと思ったのに………)




まだ全く寝足りないというくらいには、体が重い。

体中が泥のようで、まるで高熱があるかのように気だるいのだ。

許されるならばもう一度眠りにつきたいところだが、微かに聞こえた廊下からの足音に、もしや寝坊したかと慌てて時計を見る。





「キイロ様。お目覚めでしょうか」

「……すみません。ちょうど今、起きたばかりで……」



コンコン、と優しいノックと共に、シェラから声をかけられる。

こちらが寝起きだと察していたかのような、耳に響かない控えめなノックだった。




「昨日は妖異と目見えてかなり消耗しているようですから、あまり無理はなさらずに。……もう少し横になっておられるようであれば、後ほど朝食をこちらまでお持ちしましょうか?」



時刻は六時五十分だ。寝坊という訳では無かったが、いつもよりは格段に遅いその目覚めに、焦りの気持ちがザワザワと揺れる。


扉越しの会話は、なんだか不思議な気持ちだった。

いつもは、私の方が先に準備を済ませて待っていることが多かったからだ。




「………いえ。いま、支度をして会食堂に向かいます。先に召し上がっていてくださいと、カインさんに伝えて頂けますか?」 




朝食をここまで移動する手間をかけるのは悪いと、何とかベッドから立ち上がる。

まさに消耗という表現が正しく、全身の倦怠感とどんよりとした眠気が漂っていた。



(筋肉痛にでもなったかのように重いわ……。ご飯食べたら、少し寝させてもらおう)



ゾンビが這い上がるかのように、おどろおどろしく身支度に向かう。

身支度といっても、こちらの世界では魔術がほとんどを補ってくれるので、そこまで時間はかからないだろう。

カインの腕輪がある限りは、簡単な魔道具の恩恵も受けられるのだ。

洗面台に向かうと、まず浮腫んだ顔が目に入った。




「……ひどい」



口を濯いで、顔を洗う。

少しマッサージしながら丁寧に石鹸を揉み込んで、冷たい水ですすぐ。

それでも去っていかない眠気と戦いつつも、化粧水とクリームを塗りこんで歯を磨く。


しゃこしゃこと小気味いい音が部屋に木霊するのを聞きながら、部屋中のカーテンを開けるのに洗面所を出た。




(……あれは鳥……かな)




窓の外には相変わらず草原が広がっていて、胸がすっと通るような快晴だった。

陽春の、優しい朝である。

ざわりと揺れる草花の中には、胸いっぱいに空気を吸い込んだようにぽっこりとしたお腹の、鶴のような大きな鳥が一羽佇んでいた。

昨日見た生き物図鑑を開くか悩んだが、今は朝食を待たせている人がいるのでと早々に洗面所に戻る。



(………こちらの世界の朝は好きだ)



口をゆすぎながらそんなことを考える。

鏡に映った自分は、自分ではないようだった。

ミルクティー色の髪は淡く、カナリアイエローの瞳は鮮やかなのに透き通るようで。

けれどもやはり今日ばかりは、その瞳は眠たげにぼんやりとしていた。


鎖骨にかかるくらいの長さの髪は、寝ている間に随分と暴れたらしい。

だが、そんなお転婆な髪の毛たちも、櫛で梳かすといとも簡単にまとまっていく。



(魔術の道具って、本当にすごいわ……)



感心しながら髪を撫でる。

こちらの世界に来て、至れり尽くせりの生活を送っているせいか、髪には艶が増して随分とサラサラになった。

それは髪だけでなく、肌や爪もだった。

この数日でどうしてこんなに変わるのかと思ったが、魔道具の恩恵や、身に纏う品や食べるものが上質なことが大半の理由だと思われる。



(………毛先にオイルだけ塗っておこう)



あとでもう一眠りすることも考慮して、化粧はほんのり桃色の口紅を指すにとどめると、小走りでクローゼットに向かう。



「ドレス……どうしようかな」 



こちらの世界ではドレスにヒールが当たり前なので、簡素なワンピースにルームシューズでは人前に出られない。

一人でも簡単に着られる、メイプルローズのような春らしいドレスを選んでささっと着替え、くすんだ杏色のヒールシューズを選びとる。





(さて。……ん?)




先ほど呼びに来てくれたシェラは、会食堂に先に向かったと思っていたが、扉の外から人の気配を感じた。




「シェラさん?」

「……ええ」

「お待たせしていたんですね。申し訳ないです。先に向かったとばかり………」



靴を履きながらそう語りかけると、待たされたことが不快だったのか、声色の落ちた返事が返ってきた。





「構いませんよ」





蛇の巣に手を入れてしまったような、そんな寒気がする声色だった。

そのひんやりとした気配に、思わず言葉が詰まる。

クローゼットの中にある全身鏡に映る、不安に満ちた自分と目が合った。




(どうして怒らせてしまったのだろうか。……マナー違反があったのだろうか)




何はともあれ、急がねば。

クローゼットを出て扉に体を向けると、ふとぞわりと背筋が泡立った。



(……何か、変)



違和感があって、部屋を振り返った。


窓から差し込む朝日に照らされた時計は、七時を差している。

カインにもらった腕輪のお陰で、身支度にかかった時間は十分程度だ。


洗面所には私専用の石けんに、化粧水。

お化粧道具も、一式用意してもらった物が整然と並んでいる。

櫛に歯ブラシ、タオルだって、こちらに来てから毎日使っている物である。



(………ここは、私の部屋よね)



それは間違いないのだ。

だけど、崖の淵に立っているような風の揺らぎと、少しの違和感がよぎった気がしたのだ。



扉に向かうと、ヒールが絨毯に沈んでぎゅむぎゅむと音がした。

ドアハンドルに手を掛ける。古びた木がアンティーク風で、お気に入りのドアだ。




「シェラさーーー」




ギイっと重たい音がして、こんな音だったっけと頭の隅にまた違和感が宿る。

子猫が入り込むくらいの隙間が開くと、その隙間から手がするりと入り込んできた。

バンッと大きな音がして、驚きにドアハンドルを離して後ずさった。




「君が惑い子だね?」




そこに立っていたのはシェラではなく、見たことのない人だった。


美しい男性だ。白銀の髪が腰まで揺らめいていて、星を纏ったかのように煌めいている。

シャンパンゴールドの瞳には、透き通るような虹色の輝きを宿しているように見えた。


背が高くてどこか儚げな男性は、私を見てしっとりと微笑んだ。





「貴方は………どなたですか」




きらきらと、まるでダイヤモンドダストのようだ。

そんな煌めきを纏っているように見えるのは、幻覚だろうか。

神様の類の生き物ではないかと思うほどに、その男性はとても神々しくて、おそろしかった。


後退りしながら反射的に尋ねてしまい、しまったと思った時には、その男性はかつかつと部屋に入ってきてしまう。




「そのように尋ねるのは無防備だね。私がここに入ることを許しているようなものだよ」

「………っ」



困ったようなら笑いながらも、煌めきを纏った男性は機嫌を損ねたようには思えない。


なんて浅はかな質問で隙を作ってしまったのかと悔いる。

名前を尋ねても、答えてくれるわけがないのだ。




「さて。とは言え、君と話せて良かった。私はデュカと言うんだ」

「………………え?」




どくんと心臓が痛む。

この美しい人はきっと人間では無いと分かっていて、それなのに自ら名乗ったからだ。

何かあるぞと、反射的に身構える。




「………契約者を探しているなら、ちょうど私の都合がつくが……どうだい?」





その男性の囁きは、春颯のように耳を撫ぜた。


ぱちりと瞬きをする。

それは驚きから自然と出た行動だったのだが、けれどもその一瞬で、これ幸いとばかりに目の前の景色が変わる。




「さあ。ここにお座り」



瞬きの、ほんの一瞬だ。

そこは私の部屋ではなく、どこかの麗らかな森の、暖かな場所に変わっていたのだ。


真っ白なガゼボにテーブルセットが一式用意されていて、ご丁寧に紅茶とビスケットまで並んでいる。

ブレックファーストティーというよりは、イレブンジズのような軽い雰囲気の席だ。




「えっ……」



デュカと名乗った美麗な男性はすでに腰掛けていて、優雅な微笑みすら湛えている。

むしろ立ったままの私が無作法者に思えてくるほど、雅やかな景色であった。



ガゼボの周りは木々で囲まれていて、木の向こうには湖のような水辺が見えた。

小鳥が囀り、木漏れ日はきらきら降り注いでいて、風が心地よい。


白銀の美しい髪がそよいで、シャンパンゴールドの煌めきにまつ毛の影がかかると、一層に神秘さが際立つ。

まるで、おとぎ話に入り込んだかのようだ。


その光景に目を奪われて、何も言えずに立ち尽くしていると、彼はこちらを見て微笑んだ。


紅茶の水面に強く照った木漏れ日が眩しい。

目を顰めて、ただ彼を見つめた。



(一体ここは……それに、誰なんだろう)



先日の妖異の午餐会に迷い込んだ時とは真逆で、素晴らしく居心地の良い場所だ。

危うさの欠片も感じない開放的でポジティブな空間に思われたが、けれどもどこかに不安が残っていた。




「惑い子が契約者を探していると聞いたから、夢を辿って来たのだけれど、違っただろうか」

「……えっ?」

「率直に言うと、君に惹かれているのだけれど」



それは、どういう意味だろうか。

素材として、魔術の贄として、それとも研究観察対象として、だろうか。

私がそう考える間にも、デュカはすらすらと言葉を発していく。



「私が怖いかい」

「………」

「では、きちんと紙に書き出して契約しよう。私は君を害さないし、欠けることない丸ごとの君に力を貸すと」

「……それは…貴方に契約の旨味はあるのですか?」

「君のそばに居られるだろう?」



ここで美人局の疑いが浮上して、私は怪訝に顔を顰めた。

生まれてこの方、面識の浅い人間に好意を持たれた記憶はない。

私と言う人間は、一般的で素朴な人間なのだ。




「……さっき、夢を辿って来たと……どうして私の場所が分かったんですか?」

「夢を司る妖異の存在は知らないかい?ちょっと捕まえて繋いだに過ぎない。君の屋敷は、戸が開いた日から見ていたからね」



ここでストーカーの疑いも浮上して、私の眉間には無数の深い皺が刻み込まれた。

目の前の神々しい男が一気に胡散臭く見えて、なんだか寒気すら感じた。



「……貴方がおっしゃった契約は、私にどんな事情があっても、無条件に力を貸してくれると聞こえたのですが、それは本当のことですか?」

「勿論」

「本当に無条件ですか?何かの対価は取らないのですか?」

「ああ。取らないと約束しよう」

「……私からも、私に関与する周囲の方からも?」

「勿論。……随分と警戒されているようだ」




デュカは静かに笑った。くす、と吐息も漏れて聞こえると、眠たくなるような安心感さえ覚えた。



「……失礼ですが、貴方は妖異さんですか?」

「うん。そうなるかな」



変な人だが、話をしている限りは悪意のような鋭い雰囲気や、圧迫感のようなものは一切感じない。

正直、私の魔力イチを助けてくれるならば、ここで契約してしまっても問題ないように思えた。

だが、本当にこれで良いのかと、カインに尋ねたい気持ちもある。

印象操作の魔術があるならば、私はそれにハマっているのではと懐疑心が拭きれないのだ。



「では、一度書き出そうか」



私の心中を察してか、デュカは何処からか巻物のような紙とペンを取り出した。

ペンを握っていないのに、彼が指先をぴんと弾けば勝手にペンが動いていく。



私に害をなさないこと。

私の望まないことはしないこと。

私の望むことを叶えること。

全て無条件で力を貸し、対価は取らないこと。




「……他にあるかい?」

「……私に都合が良過ぎませんか?」

「ならばこれをつけ足そう」



デュカを契約者である惑い子のそばに置くこと


ペンが踊るように美しい字を書き連ねた。

どこか深いモスグリーンのインクには、心が洗われるような穏やかさを感じた。

この木漏れ日の森のような、印象の美しい色合いである。


最後にデュカと名も書き足してから、彼はその紙を私に差し出した。



「さて、私は署名を済ませた」



どきりと心臓が跳ねた。

まじまじと差し出された紙を見つめると、彼は再びくす、と笑った。

 


「……み、見えない文字で他に書かれていたりしませんよね?」

「おっと。していないと誓いを書き足しておこう。それから、嘘偽りでない事もね」

「……この契約はいつまで続きますか?」

「そうだね。永劫続けよう、君の命が尽きるまで。……それまでに要らなくなったなら、私を捨てるといい」



あまりにもいい契約すぎるので、署名した途端豹変するような事もあるのだろうか。


 


「……一度持ち帰って考えるのは、ダメですか」

「そうだね。今夜は夢を繋いで来れたけれど、次はカインが策を講じているだろうから。……ああ、ほら。迎えも来ているようだ」



デュカは湖のある方に視線を向ける。

同じ方向を見つめてみたが、私には何も見えなかった。



「君が署名しないならば、この話はここでお終いにしよう。私は君が欲しいが、それは今ではないという事だから」

「………秘匿のインクはお持ちですか?」

「随分と用心深いね。………ほら、これを使うと良い」



湖の方に、誰かいるのだろうか。

デュカの眼差しは私を見る時よりも鋭くて、そこで初めて彼は妖異なのだなと実感した。



(……今は仮で力を借りて、後からカインさんに相談すればいいか)




正直、午餐会で出会った妖異のようなタイプの人たちとは、交渉なんて出来ないと思っていた。

好待遇で契約してくれるというのだし、ひとまずこのチャンスに肖ろう。



(よし…)



カリカリとペン先が擦れる音に、デュカは視線を戻した。

私が名を書き終えると同時に、しゃりんと美しい音が鳴り響く。




(あっ。契約したのだわ)




署名した紙を見せると、デュカはすこし目を丸くした。

そして穏やかに微笑むと、契約書にぴんと指を弾く。



「その紙は君が持っているといい。今保護をかけたから、その契約の証は誰にも損なえない」

「……分かりました」



保護が掛かったらしいが、残念ながら私にはその陣は見えない。

巻物のような紙なのでくるくると巻き取って紐で縛ると、私はその契約書をぎゅっと抱きしめた。




「……あの。どうやって部屋に戻るのですか?」

「一緒に帰ろうか。……こちらにおいで」



彼の手が私に伸びて来て、ふわりと肩を抱き寄せられる。

嗅いだことのない、とてつもなくいい香りが胸いっぱいに広がって、抱きしめられたのだと気づいた時にはシェルピンクの部屋に戻っていた。




(あれ………今のは、移りの魔術………にしては、まったく揺れなかったけど………)



ただ部屋に呆然と立ち尽くす。

先ほどまで朝の用意していた、少し雑然とした部屋が目の前にはあった。


肩はデュカに抱かれていて、鼻を掠める良い香りが現実を物語っている。






「キイロ様。お目覚めでしょうか」




控えめなノックと柔らかな声が聞こえ、あれ、と顔を顰める。



(デュカさんが来た時と同じだ………)



デジャヴだと思ったが、デュカは夢を辿って来たと話していた。

あの時と違うのは、私の身支度は済んでいて、目の前にはデュカが居るということだろう。

どういう理屈か分からないが、時計は六時五十分を差している。



「し、シェラさん?」

「ええ、シェラです。……お加減はいかがですか?昨日はかなり消耗されたご様子でしたので、もう少し眠っておられても構いませんが………」



シェラの言葉は、気遣わしげに揺れていた。

そう言えば彼はこんな風に話すのだったと、先ほどのデュカの訪れを思い出して悔しさが滲む。



(………魔術の応酬だったに違いないわ………あの時は、騙されて扉を開けてしまった)



隣のデュカを見ると、彼は私を見てニコリと微笑んだ。



「キイロ様?………ご無理なさらずとも、こちらに朝食を運べますよ」

「あっ。いえ。すぐに行きますね」




そういえば、起きた時は体が酷く気だるくて、動くのも億劫だった。

今や通常運転並みに快調なのは、契約を結んでデュカの影響が出ているのだろうか。



「デュカさん。何か、私を治してくださったのですか?」

「………先ほどまで体が重く感じていたならば、それは私が夢を繋いだ影響だろうね。魔術が解けたから、その症状も治ったのだと思うよ」

「魔術の影響……」



そのような副作用があるのかと驚いてから、朝食を一人分増やしてもらうように伝えれば良かったと、慌てて扉に走る。



「ギャッ」



だが、デュカに突然羽交締めにされてしまった。

殺されるのかと息を呑んで、抗議の眼差しをデュカに向ける。



「そばに置くと言う契約なのだから、逃げてはいけないよ」

「………デュカさんの朝食を用意してもらうよう伝えようと思っただけです」

「……ああ、そうなのだね」



結局、シェラはすでに去った後だったため、隣にはデュカがいるので大丈夫だろうと、躊躇いつつも通信機を使うことにした。



通信先は厨房だったのだが、一人分追加でと伝えるだけの通話は、過去の爆発を思い出した緊張感に声が震えた。

なお、受話器の向こう側の声もかなり震えていたので、お互い様であろう。




「いつも多めに作っているそうなので、全く問題ないそうでした」

「そう。別に私は食べなくても良かったのだけど」



そんな会話をしながら会食堂に向かうが、デュカが豹変するような様子はなかった。

出会った第一印象とほとんど変わらないので、どうかこのまま穏便にカインの許可さえ貰えれば、私の契約者問題は万事解決となるわけだ。









「ハアアアア?!!」



会食堂の扉を開けると、すでにカインが着席していて傍にはシェラとシルヴァが控えていた。

朝食が何故一人分増えたのか、キイロが妖異に出くわして腹が減り過ぎているのか、といった会話が扉の外まで漏れ出ていたことは、私もいい大人なので聞かなかったことにした。




「お前アホか!目が節穴か!!朝っぱらから隣に妖異くっついてんぞ!」




私が大人の対応をしたにも関わらず、カインはこちらを見るなり椅子から立ち上がって激昂した。


シェラとシルヴァが静かに警戒態勢に入ったのを目の当たりにして、やはり不味かったかと冷や汗が噴き出す。

面食らってドアハンドルを握りしめたまま固まった私の前に、スッと白銀のゆらめきが前に立ち塞がった。




「彼女とは契約したんだ」

「ハアアアア?!」



カインの絶叫が響き渡る。

前にデュカが立ちはだかっているので全体像は見えないが、彼が動揺しているのは確かなようだ。




「あの……私から説明しても?」

「先に朝食を済ませよう。人間は温かい物を食べないと、すぐに冷えて死んでしまうだろう?」

「そんなすぐには死にません……」

「……この状態で飯が食えるわけあるか……!!」




かくして、こちらの世界に来て二度目の気まずい食事が始まったのであった。



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