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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第一章 トランシルヴァニア公国の公女、串刺し公に嫁ぐ!?
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雨と屋敷妖精とマリッジブルー

 ワラキア公との婚約は、あっという間に正式なものとなった。

 マジャロルサーグ王を通じてワラキア公にも伝えられたらしく、なんの抗議もなく受け入れられたらしい。

 ただ、ワラキア公からの直接の接触はなかった。

 私との結婚について、なんとも思っていないような無関心ぷりである。

 一応、父が手紙を送り、そのあと私も贈り物を贈った。それに対しても、なんの反応もなかったのだ。

 いったいどうして? と思いつつも、ふと、ワラキア公に対する噂話を思い出す。

 ギゼラが以前、ワラキア公は竜と人間の間の子で、人語を喋ることができない、なんて言っていたのだ。

 父の手紙も、私の贈り物の意図も、理解できなかった可能性がある。

 私の祝福の能力で、言葉を交わし、意思の疎通を取ることは可能なのか。不安でしかない。

 今日は雨が降っているので、こんなに憂鬱になってしまうのだろうか?

 はあ、と本日何度目かもわからないため息を吐いてしまった。

 そんな私の傍に、モフモフがやってくる。


『元気ナイ?』


 私の肩に飛び乗り、心配するように頬ずりしてくれる。


「平気ですわ」

『ソウカナ?』


 モフモフには感情を隠しても、ばれてしまうようだ。

 今、この瞬間だけは、弱音を吐くことを許してほしい。


「わたくし、ワラキア公と上手くやっていけるでしょうか?」

『デキナクテモ、イイヨ。気ニシナイ!』

「モフモフ……ありがとうございます」


 少しだけ、心が軽くなったような気がした。

 幼少期から一番の友達だったモフモフとのお別れも迫っている。屋敷妖精は家と契約した存在なので、外に連れ出せないのだ。


「モフモフ、わたくし達、一生親友ですので」

『モチロン!』


 モフモフと過ごす穏やかな時間を、これまで以上に大切にしようと思った。


 ◇◇◇


 嫁入りの支度は着実に進められる。

 結婚式についてはワラキア公国で行われる予定だが、バートリ家の者達の招待はできない、とワラキア公の代理人から手紙が届いた。

 いったいなぜ? と思いつつも、ワラキア公が望むことは絶対なので、こちら側から抗議なんてできやしない。

 結婚式に参列できないと知った両親は、悲しそうにしていた。

 侍女のゾフィアなんか、朝からずっと怒っている。


「まったく! 花嫁のご家族が参加できない結婚式なんて、前代未聞ですよ!!」

「そうですわね」

「エリザベル様はどうして、そのように冷静なのですか!?」

「それは、お相手はワラキア公ですし……」


 結婚が決まってから、私はギゼラを呼び出し、ワラキア公の噂話について聞き出した。

 なんでも彼は見た目から、人外じみているらしい。

 頭から二本の角を生やし、顔立ちは牛の骸骨に似ていて、見上げるほどに大柄で、いつも奇妙な声をあげている。

 けれども戦場に出て騎槍ランスを握れば、獅子奮迅の戦いを見せるという。

 中でもアトウマン帝国の兵士が恐れるのは、竜に騎乗して戦う戦法らしい。

 空の上から雨のように騎槍を振らせ、兵士達を一網打尽に串刺しとするようだ。


「ああ、許されるのであれば、このゾフィアもワラキア公国に同行し、これまで通りお側に侍らせていただきたいと思っているのですが!」

「ゾフィア、それは本当ですの?」

「え、ええ。エリザベル様のためであれば、ワラキア公国に亡命しても惜しくはありません」


 ゾフィアは十年ほど前から私の侍女を務め、五年前に結婚し、一時期は引退していたものの、離婚後、私のもとに戻ってきてくれたのだ。

 別れた夫との間に子どもはおらず、家族もそれぞれ幸せになっているので、なんら心残りはないと言い切る。


「実は、使用人を連れてきてもいい、とワラキア公の代理人から知らせがありまして……ゾフィアさえよければ、一緒にきてほしいのですが」

「私で、よろしいのですか!?」

「ええ。ゾフィアがいたら、とても心強いです」

「エリザベル様~~~~!!」


 ゾフィアは私の手を握り、号泣していた。

 まさかそこまで心配していたなんて。


「どうしてもっと早く、誘ってくださらなかったのですか?」

「わたくしが言ったら、あなたに拒否権はなくなってしまうでしょう?」

「そんなことありません! 私はエリザベル様を第一に生きておりますので、エリザベル様のおっしゃることは、絶対なのです!」


 私とゾフィアの関係を知らない人が聞いたら、誤解されてしまいそうな訴えである。

 ゾフィアは移民で、貴族ではない。

 一家総出で行き倒れになっていたところを、私が保護したのだ。彼女はそれを恩義として、長年仕えてくれている。

 父はゾフィアの結婚の面倒まで見たのだが、私を最優先にしたいという強い思いが離婚の原因となったらしい。

 十分なほど恩を返してもらったので、幸せになってほしかったのだが。

 なんて言うと、ゾフィアは決まって「私が幸せな瞬間は、エリザベル様にお仕えするときなのです」と答えてくれる。

 結婚を機にゾフィアを解放してもいいのではないか、と思ったものの、どうやら私も彼女と離れたくなかったようだ。


「ゾフィア、ありがとうございます」

「それは私の台詞です!」


 そんなわけで、嫁ぎ先にはゾフィアを同行させることに決めた。

 父が気を利かせて、他に私と一緒に行きたい者はいないか、と使用人達に募ったものの、挙手した者はいなかった。

 皆、私や父と視線が合わないよう、目を泳がせていたのだった。

 こうなることはわかっていた。 

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