戦い
この戦いでアトウマン帝国はいったいどれだけの兵力を投入したのだろうか?
そのほとんどを、ブラッド様と父君が魔法で倒してしまった。
彼らがこれほどの魔法の使い手だったなんて知らなかった。
「エリザベル、肉眼でワラキア公の姿が確認できるぞ」
窓の様子を覗き込んでいた叔母が教えてくれた。
「塔の上からだったら、戦況を確認できるかもしれません」
「ならば、行こうか」
叔母が見張りのイェニチェリ達に、空の様子を見渡せる場所まで連れて行くよう命じる。
イェニチェリ達は最初は断っていたのだが、私が魔法の鏡を割ると言ったら要求に応じてくれた。
移動する中、叔母は楽しそうに笑っていた。
「まさか、あのイェニチェリ達を脅すとはな」
「とっさに思いついたことでしたの。普段から、そのような物騒なことは考えておりませんので」
「どうだか」
イェニチェリ達の手によって鏡が運ばれていたので、同時進行で戦闘の様子も確認できた。鏡は丁重に扱われているので、きっとアトウマン帝国の宝物なのだろう。
長い長い廊下を抜け、塔に繋がる螺旋階段を上り、頂上を目指す。
ようやく塔の頂へ登り着くと、そこには巨大なワイバーンに跨がる皇帝の姿があった。
「あ、エリザベル。もしかして、応援をしに来てくれたの?」
「違いますわ」
「照れなくてもいいのに」
なぜ、皇帝の応援にやってきたのかと勘違いできるのか。
「じゃあ、そこで見ていてね。ワラキア公と竜公の首をお土産に持ち帰ってくるから」
その言葉を最後に、皇帝はワイバーンと共に飛び去った。
彼が跨がるワイバーンは他のワイバーンよりも飛び抜けて大きいが、竜の姿をしたブラッド様より一回り以上小さい。
けれどもその分、素早く動き回ることができるのだろう。
ついに、皇帝とブラッド様の戦闘が始まった。
皇帝はワイバーンのブレス攻撃で先手を打つ。ブラッド様もブレス攻撃のような光線を放つ魔法を発する。
双方の攻撃は相殺され、きれいに消え去った。
視界を遮るような煙が漂っていたが、ブラッド様は飛行速度を上げ、皇帝に直接対決を挑む。
父君が皇帝めがけて槍を突き出すも、ひらりと回避された。
続けざまにブラッド様が魔法弾を放つも、ワイバーンのブレスによって叩き落とされる。
鏡を通して、ブラッド様の声も聞こえるようになった。
「ワラキア公、悪いな。エリザベルは俺の妻になるんだ」
『エリザベルを、気安く呼び捨てにするな!!』
「あー、ごめん。なんて言っているかわからない」
私が近くにいないからか、会話は成り立っていないようだ。
『お前がアトウマン帝国の皇帝だったのだな! 絶対に赦さんぞ!!』
ブラッド様の声はこれまで聞いたことがないくらい、怒りが滲んでいた。
ぎゅっと胸が締め付けられる思いとなる。
「もしかして、エリザベル様を取り返しにきたの? 彼女を先に見つけたのは俺なんだ。ワラキア公はマジャローグ王国の言いなりになって、結婚しただけなんだよ」
『知るか!! 私は神の前で、エリザベルを妻にすると誓った』
「だから、何を言っているかわかんないってば。まあ、夫婦と言っても、その姿じゃ初夜はしていないんでしょう? だったら真なる夫婦じゃないか」
皇帝がそんなことを言った瞬間、ブラッド様の背中にいた父君がまさかの行動を見せる。
飛び上がって、皇帝に向かって槍を突き出したのだ。
『嫁は、息子の嫁だから~~~~~!!』
父君の肩には、モフモフがいることに気づいた。
怒っているのか、栗のいがみたいにトゲトゲしている。
モフモフも怒っているのだろう。
皇帝は父君の攻撃を躱しただけでなく、ひらりと身を翻し、ワイバーンがブレスを放った。
「お義父様!!」
父君の体にブレスが貫通したように見える。
「そ、そんな……!」
父君の体は、真っ逆様に落ちていった。
『おおおおおおおおおお!!!!』
ブラッド様の怒号が響き渡る。大地が揺れ、空気がビリビリ振動していた。
『おのれ、絶対に、ゆるさ――!』
皇帝に向かって飛んでいこうとしていたブラッド様だが、突然動きを止める。
「これはね、蜘蛛の巣。呪いの一種だよ」
皇帝がそう言った瞬間、空に真っ赤に光る蜘蛛の巣のような線が浮かび上がった。
ブラッド様の体は蜘蛛の糸に囚われてしまった蝶のように、動けなくなってしまう。
――蜘蛛の糸刃!!
皇帝が呪文を唱えると、蜘蛛の糸が刃のように鋭くなり、ブラッド様の全身を切り裂く。
『くっ、ぐあああああああ!!!!』
雨が降るように、ブラッド様の血が地上へ降り注いだ。




