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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第四章 諸悪の根源

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吸血姫の選択

 私が皇帝の妻になれば、マジャローグ王国とワラキア公国の戦争は回避できる――。


「俺の妻は二千人くらいいるけれど、皇后ハセキ・スルタンの座は開けておいたから、エリザベルがなるといいよ」


 妻が二千人と聞いて信じがたい気持ちになったものの、〝後宮ハレム〟と呼ばれる皇帝の正妃や側室が暮らす場所の、女官らも数に含まれているらしい。

 実際に皇帝が接するのは一部の女性で、ほとんどの妻達が皇帝に会えないまま生涯を終えるようだ。


「うるさい母后ヴァリテ・スルタンや姉妹もいないから、居心地はいいと思う」


 二千人も女性がいる空間など、居心地がいいわけがない。

 呆れたの一言である。

 

「エリザベル、今! 今すぐ決めるんだ!」


 どうやら考える時間は与えてくれないらしい。

 ブラッド様や父君だけでなく、ワラキア公国の人々を守るために私ができること。

 それは、皇帝の妻になること。

 たとえ奇跡が起きてアトウマン帝国から逃げられたとしても、呪いの秘密を皇帝が知っている以上、マジャローグ王国との戦争は回避できない。

 どうする? どうする? どうする?

 答えなど一つしかないとわかっているのに、ただ一言「あなたの妻になります」と言えなかった。

 それはブラッド様に対する裏切りだから。


 叔母は傍観を貫いているようだ。

 彼女はマジャローグ王国側の貴族であるので、なんとも言えない立場にいるのだろう。

 私も今日会ったばかりの叔母に泣きつこう、という気持ちは欠片もなかった。


「あと十秒、待ってあげる」


 皇帝が十、九、八――とカウントしていく。

 

「七、六、五」

「わたくしは……」

「四、三、二、一」


 カウントし終えるのと同時に、扉が勢いよく開かれた。

 イェニチェリの一人が、血相を変えて飛び込んできたのである。


「陛下!!」

「どうしたの?」

「西方の上空に巨大な魔法陣が浮かび上がりました! 魔術師長曰く、転移の関門ゲートだろうと。その後、巨大な黒竜が魔法陣を通じて出現し、空を駆け、こちらへ向かってきています」

「わあ! ワラキア公、思っていた以上に早かったな」


 巨大な鏡が持ち込まれ、空の様子が映し出される。

 そこには美しい黒竜が、飛行する姿があった。

 忘れるわけもない。

 その姿は、初めて出会ったときに見せたものだったから。 

 

「ブラッド様!!」


 アトウマン帝国の空を飛んでいたのは、ブラッド様で間違いない。

 よくよく確認すれば、ブラッド様の背中に父君の姿も確認できる。


「はは、竜公ドラクル小竜公ドラクレアが揃ってお出ましというわけか。いいよ、戦ってあげる」


 皇帝は立ち上がり、手にしていた杖を床に叩きつけると、魔法陣が浮かび上がった。

 全身が光に包まれ、一瞬にして武装した姿となる。


「エリザベル、どうやら君は戦利品になりそうだ。少し待っていて。すぐに片を付けるから」


 皇帝はそう言って、イェニチェリ達と共に去って行った。

 残された私と叔母は、ただただ呆然とするしかなかった。


 ◇◇◇


 玉座に残された鏡に、戦況が映し出される。

 ブラッド様と父君は地上からの攻撃をひたすら回避し、反撃していた。

 父君の大規模魔法が展開される。

 空に浮かんだ魔法陣から、槍の雨が降り注ぎ、アトウマン帝国の兵士達を一掃する。

 あの魔法は、串刺し公の由来になったものだろう。

 時間が経つと、ワイバーン部隊の襲撃が始まる。

 父君の魔法で反撃するも、次々と新しい部隊に襲われていた。

 私はこの場で、祈りを捧げることしかできない。


「何が聖女なものですか!!」


 だんだんと怒りがこみ上げてくる。

 皇帝のせいで、ブラッド様と父君は体が入れ替わり、大変な目に遭ったのだ。

 彼は自分のした行為の罪深さなどわかっておらず、私達の結婚についても、まるで娯楽の一つのように語っていた。

 絶対に、赦さない。

 勝利を祈るというよりも、皇帝に呪うような私の様子を見たからか、叔母が話しかけてくる。


「エリザベル、これからどうするのだ? 一応、トランシルヴァニア公国へ帰れる転移の魔法巻物を持っているのだが」


 アトウマン帝国から貰っていた帰りの魔法巻物は、いつの間にか消失していたらしい。

 招待すると言って、最初から帰すつもりなどなかったようだ。

 トランシルヴァニア公国行きの魔法巻物は、叔母の私物だと言う。


「すぐに、お前の両親のもとへ連れて行くこともできるが」

「いいえ、わたくしはここで、ブラッド様やお義父様の戦う様子を見ています」


 私のためにブラッド様は戦っているのだ。目を背けるわけにはいかない。


「ブラッド様は必ず勝ちます。信じておりますので」

「そう、か」

「叔母様はどうか、安全な場所でお待ちください」


 そう言ったのに、叔母は私の隣に片膝を突いて座った。


「叔母様!?」

「私もここで、ワラキア公の戦いっぷりを見させていただこう」


 〝血塗れた吸血夫人〟の存在が頼もしい、と思ったのは生まれて初めてだった。

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