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アトウマン帝国に下り立った二人

 壁一面、美しいモザイクタイルが敷き詰められ、窓はステンドグラスの装飾がなされており、天井は半円状で、トランシルヴァニア公国やワラキア公国では見かけない、壮麗な造りの部屋に下りたった。

 床には巨大な魔法陣が描かれており、その周囲に全身すっぽりと覆うようなローブをまとった者達が立っていた。手には身の丈ほどもある長い杖を握っていたので、魔法使いなのだろう。

 人数は二十名くらいいるだろうか。その中で、立派な刺繍入りのローブを纏う者が一歩、前に出てくる。


「バートリ様方、ようこそおいでになりました。皇帝陛下のもとへご案内しますので、どうぞこちらへ」


 私は叔母にしがみつき、ガクガクと震えていた。


「エリザベル、どうした? 敵国へやってきて、おじけづいているのか? ここに来たいと言ったのは、エリザベルだっただろうに」

「あ、あまりにも、突然過ぎます。侍女も一緒に来る予定でしたのに」

「この魔法巻物は大人数は運べないものだろう。きっと二人が限界だった」


 ならば、無理して転移の魔法巻物を使うこともなかっただろうに。

 

「〝善は急げ〟という異国の言葉もあるしな」


 叔母は私の耳元でそっと囁く。


「堂々としておけ。でないと、皇帝に甘く見られるぞ」


 ブラッド様の妻として、常に堂々としていなければならないという気持ちはある。

 けれどもこの状況に心が追いついていなかった。

 いきなり、因縁の相手である皇帝と面会するなんて……。マジャローグ王国の国王ですら、会ったことはないのに。


 アトウマン帝国の宮殿は柱廊でさえ華やかで美しく、目がチカチカしてしまいそうだ。

 この国がどれほど裕福なのか、まざまざと見せつけられる。


 うんざりするほど長い廊下を歩いた先に、見上げるほどに大きな扉があった。

 そこには屈強な兵士がいて、私と叔母に鋭い視線を向ける。

 彼らはきっとアトウマン帝国の最強と名高い歩兵〝イェニチェリ〟なのだろう。

 皇帝直属の精鋭部隊で、侵攻のさい、各国の兵士達を恐怖に陥れた、という噂はトランシルヴァニアの地にまで伝わってきていた。


 魔法使いの長が何か呟くと、魔法陣が浮かび上がり、扉が自動で開く。その先にあったのは、鉄格子のように並び立つイェニチェリの姿。そして、輝く黄金の玉座があったのだ。

 玉座には巨大なエメラルドが填め込まれており、そこに優雅な様子であぐらをかく皇帝の姿があった。

 背後にあるステンドグラスの窓から太陽光がさんさんと差し込み、皇帝の顔はよく見えない。

 頭に白い長布ターバンを巻き、差し込まれたクジャクの羽根飾りが揺れていた。

 長い金の髪の持ち主のようだが、顔立ちはここからだとよくわからない。

 深紅の長着に、刺繍入りの帯を巻き、ミンクかテンかわからないが、贅が尽くされたような毛皮の外套をまとっている。

 ひと目でこうべを垂れたくなるような、皇帝の重圧が私の心にのしかかる。

 叔母は臆することなく、スタスタと軽い足取りで皇帝のもとへと向かっていた。私はその三歩後ろをついて歩く。

 皇帝の前に行き着くと、私はくずおれるように膝を突いた。叔母も皇帝の前では敬意を示し、片膝を突いて頭を下げる。


 皇帝が手にしていた杖で床を叩くと、イェニチェリ達が退室していった。

 敵意はない、という意思の表れなのだろうか。

 イェニチェリ達の鋭く突き刺さるような視線に耐えられなかったので、深く安堵した。

 ただ、問題はここからである。

 無事、ルスランに会えるのだろうか。

 ついに、皇帝から声がかかる。


おもてをあげよ」


 思っていたよりも年若い声。もしや、皇帝は二十代なのだろうか。

 言われたとおり顔を上げると、私は声をあげそうになった。


「なんてね。少し偉そうだったかな?」

「あ、あなたは――!?」

「久しぶり、ワラキア公夫人」


 脳天に雷が落ちてきたような衝撃を受ける。

 にっこり微笑みかける皇帝は、あろうことか、プネの街で出会ったルスランだったのだ。

 いったいどういうことなのか。理解できないでいた。

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