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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第四章 諸悪の根源

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事情聴取

 その後、無事、ゾフィアはコーマン卿と共に戻ってきて、ホッと胸をなで下ろす。

 ゾフィアは私を発見するやいなや、子どもみたいにわんわん泣き、二度と傍を離れないと言って私を抱きしめたのだった。

 なんでもゾフィアは連れ去られたさいは横抱きにされ、丁重に運ばれていたらしい。

 私よりも扱いはよかったようだ。

 ケガもなかったとのことで、コーマン卿には感謝しなければならない。

 皆、何事もなかったのでよかった――なんて思うわけがなく、ブラッド様はカンタクジノ家の当主に対し、夜が明ける前に正式文書で抗議した。

 ワラキア公の妻、および侍女を誘拐するなど、一大事件である。

 認めないようであれば、神聖帝国が介入するだろう、と匂わせていたようだが、カンタクジノ家の当主はあろうことか、跡取りであるイアンをあっさり見捨てる。

 息子が勝手にしたことだと主張し、カンタクジノ家は無関係であると素知らぬふりを通したのだ。

 この対応には呆れたの一言で、ブラッド様は『なんて狡猾な奴なのか!』と憤っていた。

 その後、ブラッド様はイアンと魔法使いの男、そして数名の協力者を拘束し、そのまま本拠地であるポナエリ城へ連れて帰ることに決めた。

 神聖帝国の審判にかけることもできるようだが、ひとまず人質として置いておくようだ。


 三日後、私達はイアンと仲間達を連れてポナエリ城へ戻る。

 迎えてくれたストイカやロラン卿に、ブラッド様は大きな土産ができたと、うんざりした表情で言ったのだった。


 一通り報告し終えると、父君の変化についてストイカから話があった。

 なんと、声を発することができるようになったらしい。

 モフモフは期待以上の働きをしたようだ。


「ただ、その、人語を話すわけではなく、鳥みたいな甲高い声で、ピイピイ、と鳴くばかりでして」


 それを聞いたブラッド様は、頭を抱える。


『私の体でそのような声を発しているというのか!?』

「はい」


 ピイピイ鳴くのは、屋敷妖精の鳴き声である。

 私がいないときは、モフモフもただピイピイ、とかわいらしく鳴いているようにしか聞こえない。


「あの、祝福を持つわたくしがいたら、お義父様が何をおっしゃっているか、わかるかもしれません!」

『そうだったな。確認をしに行こう!』


 父君はブラッド様の私室で、モフモフと戯れていた。

 私達に気づくや否や、嬉しそうに話しかけてくる。


『息子と嫁!!』


 そう言って、駆け寄ってきた。

 やはり、私がいれば、父君の言わんとすることがわかるようだ。


『ち、父上、私が、私の言葉が、わかりますか?』

『わかる!! 息子、小さくなった!!』

『ち……』


 ブラッド様はぶるぶる震えながら叫んだ。


『父上のせいで、私はこのような姿になったのだ!!』

『そうだったんだー』


 なんというか、父君は厳格な竜だと思っていたのに、想像していた以上に気安いお方である。


 ブラッド様はここぞとばかりに父君に抗議していたが、聞く耳なんてないようだった。


『嫁!』

「は、はい」


 父君に突然話しかけられて、飛び上がりそうになるほど驚く。


『息子と結婚してくれて、ありがと!』


 その言葉に、じわりと目頭が熱くなる。

 世界一嬉しい、〝ありがと〟だろう。


「わたくしのほうこそ、ブラッド様の妻として認めてくださり、ありがとうございました」


 深々と頭を下げると、父君も同じような挙動を取るので、慌ててしまったのは言うまでもない。


 あとは親子水入らずで、と思って退室したのだが、私がいなくなった途端に意思の疎通ができなくなったようで、ブラッド様から慌てて引き留められてしまった。


 その後、もっとも知りたかった疑問をブラッド様は父君に問いかける。


『父上、その牛の頭蓋骨はなんだ?』

『ああ、この骨、脱げなくなった。何これ!?』


 まさかの回答に、ブラッド様は瞠目し言葉を失っていた。

 代わりに私が問いかける。


「お義父様が自ら被って、そのような状態になったのですか?」

『違う! これ、プネ旅行のお土産。気づいたら、息子の体を乗っ取った上に、脱げなくなっていた』


 やはり、体が入れ替わった原因はこの牛の頭蓋骨が関係しているようだ。

 牛の頭蓋骨はプネ土産だったことも明らかとなる。

 なんでも体が入れ替わってからというもの、頭がぼんやりして、視界も霞んでいるような状況だったらしい。

 私が話しかけたあと、モフモフと関わるうちに、意識が鮮明になっていったようだ。

 それ以外で、わかることはないと父君は言う。


『父よりも、カンタクジノ家のイアンと仲間達を調べるほうが先のようだな』

「ええ」


 事情を知らない父君とモフモフは、同じ方向に首を傾げていたのだった。


 ◇◇◇


 イアンと数名の協力者達は竜騎士団に引き渡され、毎日のように聴取が行われている。

 市場の呪いについては、彼らの仕業だったことが明らかになっていた。

 中でもカンタクジノ家の夜会のさいに私を捕らえた男は呪術師で、イアンの命令で農作物に呪いをかけたのだという。

 名前はキジといい、もともとは難民で商船に潜り込んで、プネにやってきたという。

 プネは難民の引き入れをしておらず、船員がキジを発見し、兵士に突きだそうとしていたところを、イアンに助けられたらしい。

 その後、イアンはキジが呪術師だと知ると、領地で管理していた質の悪い野菜や果物をプネにやってくる者達に売りつけようと画策。

 最初はただ商品を買わせるだけの呪術だったのだが、そこからイアンの悪知恵が働いた結果、中毒症状を引き起こす呪いを野菜や果物、穀物などに付与するようになったのだとか。

 ゆくゆくは人の意思までも掌握し、私兵として操り、内戦を起こすつもりだったようだ。

 目的はワラキア公の座である。

 それはイアンだけでなく、カンタクジノ家の当主も狙っているのだろう。


 続いて、牛の頭蓋骨についてもキジから聞き出した。

 しかしながら、その呪いは知らないと言う。

 父君を連れていって実物を見せても反応せず、自白魔法を使っても、情報は引き出せなかった。

 最終的に、ブラッド様と父君の入れ替わりは、別の者が画策したのだろう、という調査結果となる。


 いったい誰がこのようなことをしたのか。

 ブラッド様は一つ心辺りがあるという。

 疑わしい相手は、マジャロルサーグ王だった。なんでもマジャロルサーグ王がワラキア公国を従属国へ引き入れようと、虎視眈々と機会を見計らっていたようなのだ。

 プネに潜入し、父君が好んでいた牛の頭蓋骨に呪いを付与させ、入れ替わりを画策する。

 しかし、きちんと呪いが発動されているか、確認する術がなかったのだろう。

 悩みに悩んだマジャロルサーグ王は、従属国の娘を嫁がせ、情報を握ろうとした。

 私とブラッド様の結婚を機に入れ替わりが露見すれば、侵攻するつもりだったのかもしれない。

 そういえば父は、嫁ぎ先で困ったことがあれば、なんでも相談するように、と口を酸っぱくするように言っていた。

 過保護な父だと思っていたのだが、そうではなかったらしい。

 普通の娘であれば、結婚した夫の様子がおかしければ、実家に連絡の一つでも送るだろう。そして、マジャロルサーグ王国の忠実な臣下である父は、マジャロルサーグ王にワラキア公国の危機を伝えていたはずだ。

 けれども私は実家に報告しなかった。

 危うく、私は知らないうちに間諜の役割を果たすところだったのだ。


 一度、偽の情報を父に報告してみようか――なんて考えている私のもとに、一通の書簡が届く。

 それは〝血塗れの吸血夫人〟の名で社交界を恐怖に陥れた叔母、バートリ・エルジェベットから届いたものだった。

 

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