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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第三章 通商の街プネにて

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交渉

 彼が本当に呪術師ならば、父君の牛の頭蓋骨について調べてほしい。

 けれども、この場で決めていいものなのだろうか?

 一度出直して、しっかりブラッド様と話し合いをしてからのほうがいいのだろうが、はたして、また彼に会えるのか。


 少しでもいい。この場でブラッド様と話をする時間があれば――。

 と、ここで思いつく。利尿作用の高いお酒を飲ませたらいいのではないのか、と。

 彼が厠に行けば、ブラッド様と対策について話す時間ができるだろう。

 すぐさま作戦を実行する。


「そういえば、マジャロルサーグ王国の〝トカイワイン〟はご存じですか?」

「あー、なんか聞いたことはあるよ。おいしいの?」

「ええ、とっても。バートリ家の者達は揃って好物でして」

「へえ、バートリ家のお墨付きか。気になるなあ」

「メニューにありますでしょうか?」


 先ほど、メニューにトカイワインがあるのは確認済みである。

 ルスランはすぐに発見し、トカイワインを注文していた。

 運ばれてきたトカイワインは氷室でキンキンに冷やされていたものらしく、喉越しも最高で、ルスランはごくごく飲み進めていた。


「いやはや、このワインは本当においしい!」

「わたくしも、すぐに一瓶開けてしまいますの」


 嘘である。このワインは驚くほど甘いので、一口だけ飲むのが正統な味わい方だと言われている。 


「おいしいだけでなく、ワインの色も美しい。琥珀みたいだ」

「ええ、本当に。このワインは二年以上熟成しないと出荷してはいけないという決まりがございまして、シーズンによっては手に入りにくい年もあるようです」


 ここ数年は比較的豊作だったからか、よく出回っているのだろう。

 ある年はまったく手に入らず、父が嘆いていたのを思い出す。


「こんなおいしいワインがあるなんて、知らなかったなあ」


 実を言えばこのワイン、アトウマン帝国の侵攻がきっかけて生まれた物である。

 なんでもブドウの収穫シーズンを迎えるのと同時に侵攻を受け、農民達は収穫を後回しにし、村から逃げた。

 ようやく戦況が落ち着いた頃、村に戻ってきたときにはブドウはカピカピに干からびている上に、カビまで生えていた。

 とても食べられるような状態ではなかったものの、戦時中はたとえ干からびてカビたものでさえ無駄にできない。

 そんなわけで、そのブドウでワインを作ったところ、この極上とも言えるトカイワインが生まれたわけだ。


 そんなトカイワインの事情を、アトウマン帝国出身であるルスランは知らないのだろう。


「このワイン、何本か国に持って帰りたいな」


 よほど気に入ったのか、ルスランは店員を呼び、どこに行けばトカイワインを購入できるのか尋ねていた。

 けれどもこの店にあったトカイワインは、オーナーの知人が借金を返済する代わりに寄越した物の一つだったらしい。

 意外と安く売られているな、と思っていたのだが、アトウマン帝国出身のオーナーはトカイワインの価値をわかっていなかったようだ。


 ルスランはオーナーにトカイワインについて聞きに行くと言って席を外す。

 尿意を狙ってワインを飲ませる作戦だったが、目論みとは違う方向で願いが叶った。

 ルスランの足音が聞こえなくなると、ブラッド様が喋り始める。


『酒を飲んだあとは、あの男、口が軽くなったな。狙って飲ませたのだろう?』

「はい」

『さすが、エリザベルだ』


 尿意を狙っていた、などと言えるわけもなく。

 そんなことはどうでもいいとして、聞きたかった質問をブラッド様に問いかける。


「ブラッド様、彼は呪術師と言っておりましたが、どう思います?」

『まあ、嘘ではないのだろうが、少々うさんくさい奴だな』

「それは、なんと言いますか、そうですね」


 相手はアトウマン帝国の商人である。こちらの秘密を打ち明けていいものか、迷ってしまう。


『もう少し会話を重ねて、相手がどのような立ち位置にいるのか探りたいところだが』

「ええ……」


 やはり呪術師だからと言っても、誰でもいいというわけではないようだ。


『ただ、少々飲み過ぎのように見えるから、これ以上話を聞き出したとしても、信用ならんな』

「でしたら、そろそろお開きにしましょうか」

『それがいい』


 何か恩でも売れたらいいのだが、とブラッド様が言っていたものの、アトウマン帝国の商人相手にできることなど思いつかない。

 彼はバートリ家に興味を示していたようだが、それを何か利用できないか。

 なんて考えていたら、ルスランが戻ってきた。


「いや~~~~、さっきのワイン、とんでもなく希少なものだったんだって! メニュー欄の値段、二桁くらい書き間違っていたみたいで」

「その、なんとなくそうではないのか、と思っておりました」


 ちょうど酒を扱う商人が来ていたようで、詳しい話が聞けたらしい。


「一本もないなんて、そんなことある?」


 ここでピンと閃く。

 そういえば、実家には父のコレクションのトカイワインがあったような。

 それを譲ってもらって、彼に恩を売ることをできないだろうか?

 すぐに提案してみる。


「わたくしの実家に頼んだら、数本、トカイワインを用意できるかもしれません」

「本当!?」

「ええ」

「だったら、買い取らせてくれないかい?」

「喜んで」


 交渉成立。

 すぐに父に連絡することを約束した。 

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