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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第二章 ワラキア公の花嫁

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結婚式の前に

 執務に取りかかるというブラッド様と入れ替わるように、セラがやってくる。


「朝食をお持ちしました」


 今日はこの国の伝統的な料理を用意してくれたらしい。

 昨日の晩、何かご用命があるかと聞かれたときに、ワラキア公国の料理を食べたい、と言っていたのだ。まさか、朝から用意してもらえるなんて。

 温野菜のサラダにソーセージ、豆のトマト煮込みに、黄色いペースト状の付け合わせがワンプレートに盛り付けられていた。


「セラ、この黄色いものはなんですの?」

「そちらは〝ママリガ〟といいまして、トウモロコシ粉コーン・ミールにバターと湯、塩を入れて、鍋で煮込んだものです。この辺りの伝わる主食のようなものなんです」

「ママリガ、という料理ですのね。初めて拝見します」

「お口に合えばよいのですが」


 セラにお礼を言ってからいただく。

 ソーセージをナイフで切り分け、ママリガをソースのように乗せて食べてみた。ソーセージは保存性を高めるためか味が濃い目なのだが、ママリガと一緒に食べることによって味わいが滑らかになる。

 ママリガのみで食べてもおいしい。

 トウモロコシはワラキア公国で生産が盛んらしく、さまざまな料理に使われているらしい。

 どれもおいしくって、ペロリと完食してしまった。

 そんな私の食べっぷりを見ていたゾフィアが驚く。


「まあ、お嬢様! すべて召し上がったのですか?」

「ええ、どれもおいしくって」


 実家の朝食は厚切りのパンとチーズ、ハムにゆで卵が定番だった。

 どうしても朝からパンが喉を通らず、食も細かったのだ。

 けれどもママリガならば、朝からでも食べることができる。

 新しい発見だった。


「ママリガですか。使用人用の食堂にあったのですが、初めて目にする料理でしたので、手を出すことができなかったんです」

「とってもおいしいので、ゾフィアも召し上がってみてください」

「エリザベル様がそこまでおっしゃるのならば、挑戦してみます」 


 朝食後はセラが一日の予定を教えてくれた。

 結婚式は深夜、皆が寝静まるような時間帯に執り行うという。

 夜、眠くならないよう、お昼寝をたっぷり取っておかなければならないようだ。


「なぜ、夜なのですか?」

「竜の姿であるワラキア公が目立たないための対策だそうで」

「ああ、そうでしたね」


 ブラッド様の体が父君と入れ替わっている、という話を知っているのは、ごくごく一部の人達だ。

 その情報が外部に露見すれば弱点となる。そのため、なるべく他の者達に知られないよう、深夜に結婚式を行うようブラッド様と側近の方々、ロラン卿が話し合って決めたようだ。


「夕方まではゆっくりお過ごしください。それ以降は、結婚式の支度を行いますので」

「わかりました。どうぞよろしくお願いいたします」


 セラは深々と頭を下げ、下がっていった。

 その後、私はワラキア公国の歴史について書かれた本を一冊読み、少し眠るかと横になるも、睡魔が都合よく襲ってくるわけもなく……。どうしたものか、と心の中で頭を抱える。

 寝室でゴロゴロしていたら、父君と一緒に過ごしていたモフモフが戻ってきた。


『タダイマ!』

「モフモフ、お帰りなさい。お義父様と仲良くされていたの?」

『ウン!』


 なんでも一緒に遊び、寝て、また遊ぶという楽しい時間を過ごしたらしい。


「お義父様はお喋りできるようになりましたか?」

『マダ! 人間ノ喉、発音、難シイミタイ』

「そうですのね」


 父君が喋れるようになるまで、道のりは長いようだ。


「今、お義父様は何をされているの?」

『眠ッテル!』


 なんでも昨晩の夜から、ずっと目覚めていないらしい。

 ストイカ曰く、一日中目覚めない日もたまにあるようなので、放っておいても問題ないという。

 モフモフは眠る父君を見守っていたようだが、飽きたので戻ってきたようだ。


「実はわたくしも、眠らなければならないようで」


 深夜の結婚式についてモフモフに話すと、思いがけない提案を受ける。


『ジャア、モフモフガ、寝カセテ、アゲヨウカ?』

「モフモフ、あなた、寝かしつけができるのですか?」

『デキルヨ!』


 なんでも父君も、昨晩、寝かしつけてあげたという。

 その実績を聞いてしまったら、頼むしかないだろう。


「でしたら、お願いします」

『任セテ!』


 モフモフは寝転がる私のお腹の上に乗り、ぽんぽんと跳ね始めた。

 それはまるで、幼少時に乳母がお腹を叩いて寝かしつけてくれるような、心地よいリズムだった。

 瞼を閉じると、だんだん意識が遠のいていく。

 そして――。


「エリザベル様、もう夕方ですよ!!」


 ゾフィアに大きな声で起こされ、ハッとなる。


「あ、あの、わたくし――?」

「やっと起きられましたか。お昼のときにも起こしにきたのですが、まったく目覚めなくって。よほど、お疲れだったのですね」


 モフモフの寝かしつけで、八時間も眠っていたらしい。


「まあ、それだけ眠ったら、結婚式のときも眠くならないでしょう」

「そ、そうですわね」


 どうやらモフモフは、とてつもない寝かしつけの才能を持っているようだ。

 今度から、眠れないときは彼女に相談しよう、と心に誓った。


 ◇◇◇


 結婚式の準備が始まる。

 お風呂でじっくり湯に浸かり、全身くまなく磨かれたあと、髪や爪の手入れを行う。

 婚礼衣装に袖を通し、化粧と髪結いは二時間かけたのちに完成する。

 緊張していたからか、夕食は喉に通らなかった。

 結婚式が終わったら食べられるよう、セラがお弁当箱に取り分けてくれたらしい。

 心から感謝したのだった。


 ゾフィアが最終確認で、ドレスを整えてくれる。


「この晴れ姿を、トランシルヴァニア公国のご家族にもお見せしたかったです」

「ええ……。ですが今は各国が緊張の中にあるので、難しいお話かもしれないですね」


 結婚式ができるだけでも、私は果報者かほうものなのだ。


「皆の代わりに、ゾフィアがしっかり見守っていてくださいね」

「もちろんですとも! このゾフィア、瞳にエリザベル様の婚礼衣装姿を、焼き付けておきますので!」


 モフモフも傍にいる、と主張しながら飛び跳ねる。


「ふふ、ありがとう」


 家族と会えなくて寂しい気持ちはあるものの、私にはゾフィアやモフモフがいる。彼女達だけでも傍にいてくれてよかった、としみじみ思ってしまった。


「それにしても、新郎が幼竜の姿だなんて、切ないですね」


 たしかに、幼竜の姿となった者と結婚式を挙げるのは、私が世界で初めてかもしれない。


「ただ、どんな姿でも、ブラッド様に代わりはありませんわ」

「そうかもしれませんが……はあ」


 そんな会話をしていると、柱時計がボーン、ボーンと鳴る音が聞こえてきた。

 鳴り終えたのと同時に、セラがやってくる。


「ワラキア公はすでに、礼拝堂でお待ちです」

「では、参りましょう」


 城内には秘密の地下通路があるようで、外に出ずとも中郭にある礼拝堂へ行くことができるらしい。


「竜公は眠っていらっしゃるようで、結婚式には不参加となります」


 参列者はストイカ家の親子に、騎士隊のロラン卿、スタン卿の二名が代表し、他、ブラッド様の側近、使用人が数名参列してくれるようだ。

 私はゾフィアとモフモフを引き連れ、礼拝堂へと向かう。

 地下通路が繋がる先は、祭壇の前となっていたようだ。

 階段を上って、礼拝堂へ出ようとした瞬間、目の前に手が差しだされる。

 黒髪に赤い瞳を持つ見目麗しい青年が、私をじっと見つめていた。

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