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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第一章 トランシルヴァニア公国の公女、串刺し公に嫁ぐ!?
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エリザベルの疑問

 ひとつ、気になっていたことがあったのだ。勇気を振り絞って聞いてみる。


「ワラキア公、その、お聞きしたいことがあるのですが」

『ああ、なんでも聞いてくれ』


 私も竜の尻尾があれば、びたん、びたんと石床に叩きつけていたかもしれない。

 ただ、気になるままでいるよりはいいだろう。

 恥を捨てて、質問してみた。


「竜と人の間では、どのように子どもを成すことができるのでしょうか?」

『ああ、それについては心配いらない。竜は変化能力があり、人間の姿になれる』

「そういうわけだったのですね」


 ちなみに、ワラキア公は卵から生まれたわけではなかったようだ。


「えー、そのー、では、これまで人間の姿になって、筆談とかで、事情を説明されなかったのですか?」

『そ、その手があった!!』


 どうやらワラキア公はこれまで人化せず、直球で声をあげて訴えていたらしい。


『よし、人化を試してみよう』


 呪文を唱えずとも、ワラキア公の周囲に魔法陣が浮かび上がり、淡く発光している。

 これが竜の魔法! なんて神秘的なのか。

 風が巻き上がり、強く発光した。


『オオオオオオ!!』


 雄叫びを上げると、魔法が完成したのか、その姿は光に包まれる。

 あまりのまぶしさに目を閉じた。

 そして、光が収まったあと、恐る恐る目を開く。


『な、なんだ、これは……!?』


 戸惑うようなワラキア公の声が聞こえる。

 魔石灯で照らされた姿は、愛らしい幼竜だった。


「まあ!! 幼竜の姿に変化されたのですか?」

『ち、違う! 元の自分に似せた姿になろうとしていた!』


 ここで初めて、モフモフが会話に参加する。


『変化魔法、難シイ!』

「そうだったのですね……」

『思い返してみたら、父は一年に一回程度しか、人間に変化しなかったような』


 竜であっても、人化は難しいようだ。

 ワラキア公は元の竜の姿に戻ろうとしたようだが、変化魔法を使える魔力が残っていないらしい。魔法は失敗すると、余計に魔力を消費する。そのため、竜であっても続けて変化魔法はできないようだ。


『くっ……仕方がない。魔力が回復するまで、この姿でいるしかないのか』

「しかし、その姿であれば、お城の中を歩き回りやすいのでは?」

『たしかに、そうだな』


 竜の姿だったときは、一歩進むにつれて、城が揺れていたらしい。そのことを思えば、小型化はいいことなのだろう。


 幼竜の小さな体は、牢屋をすり抜けることができる。

 しょんぼりした様子で、ワラキア公は私の傍までやってきた。


『傍で見ると、お前はよりいっそう小さいな』

「今はワラキア公のほうが小さいです」

『そうだった』


 小さい体では飛行するのも大変らしい。

 飛行の状態を維持できず、ぽてん、と落ちるように着地していた。

 その体を持ち上げる。


『な、何をする!?』

「わたくしが抱っこしたほうが、よろしいかと思いまして」

『だ、抱っこだと!?』


 幼竜だからだろうか。鱗はとてもやわらかく、すべすべしていた。

 お腹はぷっくりしていて、全体のシルエットは丸い。

 なんとも愛らしい姿となっていた。

 そんなワラキア公を抱いたまま立ち上がる。


『おい、どこに行くのだ!?』

「このような小さなお体で一晩明かすのは気の毒ですから、わたくしの部屋に行きましょう」

『必要ない! 私の部屋に連れていけ!』

「ワラキア公の私室には、お父様がいらっしゃるのでは?」

『た、たしかに』


 今晩は一緒に眠って、明日になったら使用人の皆に説明すればいいだろう。


『まだ挙式をしていないのに、未来の妻と同衾どうきんすることになるとは……!』


 成人した男性にとっては深刻な悩みだろうか、かわいらしい幼竜の姿なので、まるまった背中が愛らしい、としか思えない。


『長椅子でもあれば、そこでもいいのだが』


 なんて紳士的な発言をしてくれるのか。

 ワラキア公に残虐だという噂がついて回っていたとは思えないくらい、心優しいお方である。

 もしかしたら串刺し公の噂は、バートリ家の吸血鬼みたいに、いわれのないものだったのかもしれない。


「ワラキア公、今日は冷えますので、一緒に眠りましょう。こうして体を密着させていれば、温かいでしょう?」

『た、たしかに! しかしながらお前は、大胆なのだな』


 愛らしい姿なので、一緒に眠ろうだなんて言えるのだろう。

 元の姿であれば、提案すらできなかったはずだ。

 幼竜の姿だったので、添い寝くらいの感覚だったのだ。

 このような姿であっても、ワラキア公が紳士的に振る舞っているのであれば、私もそれ相応の態度でいないといけないのに。


「失礼な申し出をしてしまい、申し訳ありませんでした」

『あ、いや、その、嫌というわけではない!! ふむ、そうだな、今日は特別冷える。私の体温で、エリザベル嬢を温めてやろう』

「ワラキア公……ありがとうございます」


 私に恥をかかせないように、このように言ってくれるのだろう。


「では、お部屋に行きましょう」

『その前に、頼みがある』

「なんでしょう?」


 ワラキア公はもじもじとしながら、上目遣いで私を見つめる。


『夫婦となるのだから、ワラキア公でなく、ブラッド、と呼んでほしい』

「はい、ブラッド様」


 そう返すと、ワラキア公改め、ブラッド様の尻尾が左右に揺れた。


「わたくしのことも、エリザベルと呼んでくださいませ」

『わかった、エリザベル』


 使用人達を起こさないよう、足音を立てないように地下の階段を上がっていく。

 モフモフも私の後に続いた。

 廊下もなるべく物音を立てないように進んでいく。

 真夜中は布のすり切れる音でさえ、大きく聞こえるのだから不思議である。


「あの、こちらの部屋を、お借りしております」

『ここか? 母上の部屋のほうが大きいだろうに』

「おそらく、ブラッド様の父君がいらっしゃる私室と遠い場所を、ご用意してくださったのでしょう」

『ああ、そういうわけか』


 ひとまず、ブラッド様を寝台の上に下ろし、私はガウンを脱ぐ。


『なっ、うわ!!』


 私の姿を見るなり、ブラッド様は毛布の中に潜り込んでしまった。


「どうかなさったのですか?」

『まだ、妻ではない女性の寝間着姿など、見てはならないのだ!』

「まあ!」


 いずれ結婚するのに、ずいぶんと律儀なことを言ってくれる。

 ブランケットを体に巻き付けてから、寝台の上に横たわった。


「ブラッド様、寝間着が見えないようにしましたので」

『そ、そうか』

「眠るまで、少しお喋りしましょう」

『ああ、そうだな』


 それから私達は互いの話がつきなかった。

 ついつい一晩中、語り明かしてしまったのである。


 朝、目覚めたのは、カーテンから差し込む光や、鳥のさえずりではなく、ゾフィアの叫びだった。

 

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