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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第一章 トランシルヴァニア公国の公女、串刺し公に嫁ぐ!?
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竜との会話

「あ、あなた様は、竜なのですね」

『そんなの、見てわかるだろうが!』

「も、申し訳ありません」

『ワイバーンとでも思っていたのか?』

「はい」

『どこからどう見ても、竜だろう――って、うわああああ!!』


 竜は突然、大げさな様子で驚く。

 空気がビリビリ震え、地面が少し揺れたように感じた。

 モフモフは恐ろしかったのだろう。毛を逆立てた状態で、私のガウンの中へ飛び込んでしまった。


『おま、おま、お前!!』

「はい?」

『わ、私の言葉がわかるのか!?』

「ええ、わかります」

『な、なんだと~~~~~~!?』


 竜がいきなり姿勢を低くし、顔を近づけてきたので、突風が吹いたかのような圧を受ける。

 両足で踏ん張って、なんとか耐えた。


『お前は何者――というか、誰だ!?』


 竜相手に名前を名乗っていいものか、迷ってしまう。

 魔法を習ったさいに、名前は人が与えられる最初の呪文だ、なんて教えてもらった覚えがあるから。

 なんでも魔力を多く持つ者は、魔力が少ない者の名前を呪文代わりに唱えると、服従させることができるのだ。

 ただそれは、小さな虫と人間とか、人間とエルフとか、圧倒的な魔力差がないと使えない。またその魔法を失敗すると、術者は身を滅ぼしてしまう、という危ういものなのだ。


 そんな危険な魔法があるため、名乗り合うというものは危険が伴う。

 相手が竜であれば、なおさらだ。

 ただ、名乗るというのは、相手への信頼にも繋がる。

 現在、竜にとって私は不審者にしか見えないのだろう。

 竜族は幻獣の中でも誇り高い存在で、気難しい気性の者が多いと聞いた覚えがある。

 意思の疎通ができると知った竜の反応を見るに、お城の人々と会話ができていなかったのだろう。ここできちんと名前を伝えて、どうしてここに囚われているのか聞き出さないといけない。


「このような格好で失礼いたします。わたくしの名前は、エリザベル・バートリと申します」

『バートリ家の者か』


 家名を名乗って、驚かれなかったのは初めてかもしれない。

 たったそれだけなのに、感激してしまう。

 さすが、竜だ。

 竜にとってバートリ家というのは、取るに足らない存在なのだろう。


『なんだ、嬉しそうだな』

「ええ! バートリ家と聞くと、吸血鬼だと恐れられることが多々ありまして」

『バカな。バートリ家の者達が吸血鬼なわけないだろう』

「やはり、おわかりになっているのですね!」

『当たり前だ』


 なんて知的で、物事の分別がある素敵なお方なのだろうか。

 ワラキア公が、彼みたいな人だったらよかったのに、と思ってしまった。


『どうした? いきなり大人しくなって』

「いえ……婚約者に無視されてしまったことを思い出してしまいまして」

『なんだと? 失礼な男だな。どこの誰だ?』

「ワラキア公です」

『わ、私ではないか!!』


 ないか、ないか、ないか――と竜の叫びが地下に響き渡った。


「ど、どういうことですの?」

『婚約者というのはどういう意味だ!? 聞いていないぞ!?』


 まるで、当事者のような物言いである。

 そういえば、ギゼラがワラキア公は竜に変化できる人間だ、と話していた。

 〝私ではないか〟という発言から推測するに――。


「あなた様は、ワラキア公、なのでしょうか?」


 私の質問に対し、竜はこくりと頷く。ワラキア公は本当に竜だったようだ。

 驚いたものの、どこか腑に落ちてしまった。

 ギゼラから話を聞いていたおかげで、今、比較的冷静でいられるのだろう。

 続けて質問を投げかける。


「では、ワラキア公――あなた様は夜に、竜の姿へ変化するお方なのですか?」

『違う! そうではない!』

「では、昼間にお会いしたワラキア公は?」

『あれは……あれは私ではない。お前とは、今、初めて顔を合わせた』


 ならば、牛の頭蓋骨を被ったワラキア公はいったい誰だったのか。

 その疑問については、ワラキア公がすぐに答えを教えてくれた。


『あれは父だ』

「お父様……? ですが、使用人の方々はワラキア公だと」

『違う! 私は、私は父の体と魂が入れ替わってしまっているのだ!!』


 どーーーーーん! と脳天に雷が落ちてきたような衝撃を受ける。

 くらくらと目眩を覚えたものの、倒れている場合ではない。

 少し、情報を整理する。


「えー、その、つまり、黒い竜はお父様のお体で、ワラキア公の魂が入っている、と?」

『ああ』

「そして、ワラキア公のお体には、お父様の魂が入っている、ということで間違いありませんか?」

『そうだ』


 いったいなぜ、そのような事態になっているのか。


「原因について、何かご存じなのですか?」

『知るわけあるか! 母の葬儀のあと、気づいたら竜になっていたからな!』

「それはお気の毒に……」


 ということは、十ヶ月もの間、ワラキア公は竜の姿だった、ということになる。


「あの、入れ替わった間にあったアトウマン帝国の侵攻のさい、戦陣を切って戦っていたというのは――」

『父だな』


 ワラキア公の体でいながらも、猛烈な活躍をしたらしい。


『ただ、父が人外じみた活躍をしたせいで、余計に恐れられるようになってしまったのだが』


 なんとも気の毒な話である。


『ずっと言葉も通じず、竜が私で、私の体に入っているのが父だと伝えようとしても、まったく理解してもらえなかった』

「まあ! ならば、使用人の方々は皆、入れ替わりに気づいていない、ということですの?」

『そうだ』


 ちなみにワラキア公の姿となった父君は、人語を喋ることができないらしい。


「その、これまでどうやって、父君と交流なさっていたのですか?」

『母が父の通訳をしてくれたんだ』

「わたくしと同じ祝福を持っている、ということですか?」

『お前は祝福持ちだったのか……。母は違った』


 なんでも眼差しや反応から、こういうことを考えているのではないか、というレベルで意思の疎通をしていたらしい。


『犬や猫を飼育している飼い主が、こういう要求をしているのではないか、と勝手に推測するのと同じようなものだったのだろう』

「そ、そうだったのですね」


 それでも、ワラキア公のご両親は仲睦まじく暮らしていたらしい。

 けれどもその生活も、母君の死によって崩れてしまったようだ。


『魂が入れ替わった原因は、おそらく父にあるのだろう。ただ、父は人語を解せず、私自身も父の気持ちなどわかるわけもない』


 最初は父君に詰め寄り、一生懸命理由を聞こうとしたらしい。


『けれども父は、母を亡くしてから心を閉ざしてしまった。誰が話しかけても反応せず、幽霊のように彷徨さまよっている』


 それは昼間見かけた、ワラキア公の姿そのものだった。

 きっと伴侶を亡くし、意気消沈しているのだろう。


『ただ、母が儚くなってから、十ヶ月も過ぎている。いい加減にしてほしいと詰め寄ったら、攻撃に見えたようで、ストイカの親子に拘束されてしまった』

「そ、そういう事情でしたのね」


 セラが何か隠しているように感じていたのだが、それは竜のことだったのだろう。


「しかし、大きな体をした竜を、どうやって拘束したのですか?」

『奴らはつる魔法の名手だ。瞬く間に私をぐるぐる巻きにし、地下へぶち込んでくれた』

「なるほど」


 ここは竜を捕らえるための地下部屋で、巨大な竜が入れる牢屋も完備されているようだ。


『ストイカ……主に娘のほうは、用心が必要だ。かなりの蔓魔法の使い手だろう』


 蔓魔法はどんなに重たい物でも、軽々と持ち上げてしまうらしい。

 通常、建物の建築などに使われるようだが、竜の捕獲も可能のようだ。


「その、大変でしたね」

『まったくだ』


 思わず同情してしまった。  

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