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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第一章 トランシルヴァニア公国の公女、串刺し公に嫁ぐ!?
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ワイバーンを探せ!

 モフモフは城内が恐ろしいと言っていたのに、ワイバーン探しに付き合ってくれるようだ。


『エリザベル、ヒトリニハ、デキナイ!』

「モフモフ、あなたは本当に優しい子ですわ」


 ただ、本当に怖いのか、栗みたいに毛がトゲトゲと逆立ち始める。

 気の毒なので、両手で包み込むように運んであげよう。


 廊下に出てみたものの、隙間風だろうか。ヒューヒューと冷たい風が吹いている。

 ここで、寝間着姿のままだったと気づいた。

 母がワラキア公国は寒いだろうから、とてんのガウンを持たせてくれたのを思い出す。

 ワラキア公国はトランシルヴァニア公国よりも南部にあるのに寒いわけがないのでは? と思っていたが、確実に実家よりも寒い。

 これは木造の屋敷と歴史ある石造の城の違いなのだろうか。

 寝間着の上から貂のガウンをまとうと、寒さも和らいだ。

 心の中で母に感謝したのは言うまでもない。

 モフモフは貂のガウンにしがみつく。胸辺りだったので、ガウンの飾りのように見えなくもない。

 鏡でおかしなところがないか確認し、再出発した。

 廊下の明かりはすでに消され、真っ暗である。

 ただ、魔石灯の明かりは蝋燭よりも明るいので、十分なくらい照らしてくれた。

 依然として、ワイバーンは何かを訴えるように鳴いていた。

 耳を澄ましても、何を言っているのかわからない。

 やはり、近くまで行くしかないようだ。


 ただ、ワイバーンの鳴き声は石造りの建物に反響していて、どこから聞こえているのかよくわからない。


「ど、どちらから鳴いているのでしょうか?」

『コッチー!』


 モフモフが毛を一本長く伸ばし、方向をピン! と示してくれる。

 さすが、妖精。私よりも耳がいいようだ。

 その後も、モフモフの案内で右に、左にと廊下を曲がり、ついには行き止まりとなってしまった。


「こ、ここは……?」


 近づいているはずなのに、鳴き声が大きくなることもなく、これ以上進めない場所に行き着いてしまう。

 回れ右をしようとした瞬間、モフモフが壁に体当たりした。

 すると、魔法陣が浮かび上がる。


「なっ、これは!?」


 魔法陣に書かれているのは古代語だ。手書き刺繍イーラーショシュを刺すさいに使う文字もあるので、少しだけ理解できる。


「鍵……開かれし者のみ……通過」


 どうやらこの魔法陣は、隠し通路に繋がる鍵のようだ。

 きっとこの向こう側にワイバーンがいるのだろう。

 ただ、どうすれば鍵が開くのかはわからない。

 途方に暮れていたら、モフモフが解錠方法について教えてくれた。


『コノ魔法陣、古ク、廃レカケタ魔法。魔力ヲ、流シタラ、消エル』

「そういうわけでしたのね」


 どうやらこれは古い時代に屋敷にかけられた魔法であるが、劣化しかけているので、魔力を流したら打ち消すことができるようだ。


 私は魔法使いではないので、魔力を流す方法なんて知らない。

 けれども魔力が溶け込んだ血を使えば、同じような状態にできるはず。


「モフモフ、毛を一本、鋭くしてもらえますか?」

『イイヨ』


 シャキ! と針のように鋭くさせたモフモフの毛を、指先にほんの少しだけ刺す。

 球の血がぷつ、と浮かび上がったので、それを清潔なハンカチで拭い、魔法陣に擦りつけた。

 すると、バチン! と大きな音を立てながら、魔法陣が消える。

 同時に、扉が現れた。


『おい、この野郎~~~~~~!!』

「きゃあ!」


 魔法陣がなくなった途端に、〝声〟が聞こえた。耳をつんざくような、大声である。

 ワイバーンの言っていることが、ようやくわかるようになった。


「おい、この野郎、ですって」

『ウン』

「どういう意味でしょう?」

『ワカンナイ』


 ただこの一言だけでは、何を言いたいのかよくわからない。

 もう少しだけ聞き耳を立ててみた。


『この俺を、こんなところに閉じ込めやがって~~~!!』

「ま、まあ」


 どうやらこのワイバーンは、隠し扉の向こうに閉じ込められているらしい。


『誰か、誰かいないのか!!』


 モフモフと顔を見合わせ、同時に頷く。

 話が通じるかわからないが、ワイバーンのもとへ行ってみよう。


 魔法陣の封印が解かれた扉を開くと、そこは地下へ繋がる階段となっていた。魔石灯で照らしながら、慎重な足取りで下りていく。


 相手に接近が伝わるよう、わざと足音を大きくしてみた。

 すると、ワイバーンは私に気づく。


『おい、誰だ!? ストイカか?』

「わたくしです」

『は!?』


 階段を下りてすぐに、ワイバーンを閉じ込めた空間があるようだった。

 足下を照らすと、大きな竜の足が確認できる。

 黒い鱗を持つワイバーンだ。他のワイバーンは灰色ばかりだったので、珍しい色合いなのかもしれない。

 さらに、トランシルヴァニア公国からワラキア公国まで乗せてくれた、竜車のワイバーンよりかなり大きく思える。

 魔石灯を高く掲げるも、ワイバーンの黒い腹部しか見えなかった。


『な、何者だ!? 見覚えがないのだが』


 出会って早々にブレスを吐かれたらどうしようかと思っていたが、ワイバーンは私の登場に、ただただ戸惑っているようだった。

 見覚えがない、という発言から推測するに、城にいる者達の顔を覚えているのだろう。

 他のワイバーンよりも賢いようだ。

 どういう言葉をかけていいものか迷っていたら、モフモフが魔石灯に飛び乗り、コツコツと叩く。

 すると、光量が上がった。

 部屋の中全体が照らされ、ワイバーンの姿が明らかとなる。


『なんだ、まぶしっ――!!』


 立派な太い足に、長い尾、美しい黒い鱗に、大きな翼、そして豊かな知性があるような赤い瞳――この子はワイバーンではない、竜だ。

 

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