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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第一章 トランシルヴァニア公国の公女、串刺し公に嫁ぐ!?
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深夜、不気味な鳴き声

 食後に赤ワインが用意され、ギョッとしてしまった。

 まさか生き血ではないのか、と思って匂いをかいでみたが、ただのお酒だった。

 そういえば、牛のグリルは少し赤身が多めだったような……。

 バートリ家の吸血鬼ではない、と否定していなかったのを思い出し、誤解を解かなければ、と思ったのだった。


 その後、メイドがやってきて、お風呂の世話をしてくれた。

 浴室は一面大理石で、湯もたっぷりと張られている。

 実家にいたころは大きなたらいにお湯があるばかりだったので、感激してしまった。

 足を伸ばし、肩まで浸かるのなんて、生まれて初めてだ。こんなに気持ちいいなんて、知らなかった。

 同時に、ワラキア公はずいぶんと裕福なんだな、と思ってしまう。 

 メイド達は私が湯に浸かった状態で、髪や体を洗ってくれた。

 浴槽の中で洗うなんてもったいない、と思ったのだが、体を流す湯も十分に用意されていた。

 最後に薔薇の香油を髪や体に揉み込まれ、薄い絹の寝間着を着せてもらう。

 ゾフィアもお風呂を堪能したようで、上機嫌だった。


「ねえ、ゾフィア、もう下がってよろしくってよ」

「しかし、今日くらいはお傍に侍りたかったのですが」

「心配いりませんわ」


 ゾフィアを下がらせ、一人っきりとなる。

 窓の外から夜鳥のギャア、ギャアという不気味な鳴き声が聞こえ、やはり傍にいてもらえばよかったのか、と若干後悔してしまった。

 そういえば、モフモフを鞄の中に入れっぱなしだったことを思い出す。

 鞄を開くと、栗みたいにトゲトゲした状態で収まっていた。


「まあ、モフモフ、忘れていて、ごめんなさい!」

『平気! デモココ、怖イ!』


 それは同感である。

 モフモフを撫でてあげると、トゲトゲが収まってきた。


「今日は大変な一日でしたわ」


 モフモフは私を労うように、手のひらの上で跳ね回る。


『エリザベル、モウ人妻?』

「そんな言葉、どこで覚えてきましたの?」

『紳士ノ、集会!』


 どうせ、ろくでもない者達の集まりだったのだろう。

 深く長いため息を零してしまった。


 夜も更けてきたものの、当然ながらワラキア公はやってこない。

 一応、結婚式は挙げていないものの、初夜は行うかもしれない、と腹をくくっていたのだ。

 よかったのか、悪かったのか、よくわからないでいた。


 いろいろあった一日だったが、まだ眠れそうにない。

 こんなときは、手仕事に限る。

 かわいがっていた羊から分けてもらった羊毛を、持ってきていたのだ。

 通常、糸を作るまでにさまざまな工程が必要となる。

 まず、羊毛を解しながら付着したゴミを取り除き、カーダーという太い針が幾重にも突き出た道具を二つ使って、羊毛を梳き取り、繊維の方向を合わせていくのだ。

 それを糸車で紡いでいくのだが、モフモフがいればその手間は省ける。


「モフモフ、お願いしてもよろしいですか?」

『イイヨ!』


 モフモフは私の手のひらにある羊毛をぱくん、と飲み込むと、右に、左にと揺れる。

 そして、ぷっとゴミを吐き出した。

 続けて、羊毛を咀嚼するように、口をもぐもぐと動かす。

 最後に口をパカッと開いたので、繊維を手に取る。すると、糸車で紡いだように、つーーー、と伸びて糸が完成するのだ。

 完成した糸を糸巻きに巻いていく。

 一時間ほどで、美しい羊毛の糸が完成した。


「モフモフ、ありがとうございます」

『ドウイタシマシテ!』


 あとはこの糸に一滴の血を垂らし、染めたら刺繍糸のできあがりだ。

 染料はワラキアにある物にしたい。

 春になったら、美しい花が咲くだろうか?

 明日、セラに聞いてみよう。


 一仕事終えたからか、なんだか眠くなったような気がする。

 ワラキア公も訪れないだろうし、もう眠ってしまおう。

 モフモフと共に寝室に行き、横たわる。

 布団はふかふかで、羽布団も暖かい。

 暖炉には火が入っていて、寝室をやわらかく照らしてくれる。

 パチパチという薪が燃える音が、子守歌のように聞こえ、うつらうつらしていたのだが、突然聞こえた鳴き声にギョッとする。


「こ、これは――!?」


 セラが話していた、ワイバーンの鳴き声なのだろうか。

 ただそれは、外から聞こえたというよりも、城の中から響き渡っているように思える。

 もしかしたら、ワラキア公がワイバーンを城の中で飼育しているのだろうか。

 だとしたら、大変な迷惑である。

 気にしないで寝よう、と思ったのに、ワイバーンの鳴き声が何か訴えているように思えてならない。

 

『ナンテ、言ッテイルノ?』

「近くで聞かないと、わかりませんわ」


 あれだけ必死な様子で鳴いているのだ。重要なことを訴えている可能性がある。


「モフモフ、様子を見に、付き合ってくださいますか?」

『イイヨ!』


 寝台の傍にあった円卓には角灯が置かれていたのだが、蝋燭のランタンだった実家とは異なり、魔石を使って明かりを灯すものらしい。使い方をセラから聞いていなかった。

 どうしようかと迷っていたら、モフモフが魔石を飲み込む。そして、その場で一回跳ねると、明かりが付いた。モフモフが吐き出した魔石を角灯に入れる。


「モフモフ、ありがとう」

『イエイエ』


 そんなわけで、ワイバーンを探しに行くこととなった。

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