ざまぁでエンディング
「コラッツ予想」。
それは前世における多くの数学者を悩ませた問題だ。ドイツの数学者ローター・コラッツが考えた計算ルールの予想であり、「3n+1」問題とも言われている。「正の整数に対し、偶数の場合は2で割り、奇数の場合は3倍した上で、1を足す。これを繰り返すと、1に到達する」というもので、未解決問題である。
つまりこの予想が正しいと、紐解けた人物はいない。一見、簡易な問題。でも取り組んだが最後、沼にハマる。
ちなみに前世での記憶では、「コラッツ予想」の真偽を明らかにした人に、1億2000万円を払うと日本のベンチャー企業が2021年に発表している。
ということでこの「コラッツ予想」について書いた手紙をエルダン第二王子に送ったところ、私が予想した通り。彼からは、一年ぐらい、手紙が来なくなった。いい感じで沼っていてくれたと思ったが、彼は秀才だ。「コラッツ予想」が危険な罠であると気づき、早々に手を引いたか、いまだ挑戦しているか、それは分からない。ただ、確かなことがある。それは一旦手紙は途絶えたが、再び手紙が来るようになったということだ。
その手紙に書かれているのは、とにかく私と会って話したい――だった。
面倒だな~と感じつつも、思い出したことがある。悪役令嬢としてどうしても果たさないといけない役目があった。それは、ティモシーからの断罪だ。このイベントなくして、ティモシーとリアーナは、ゴールインできない。そこでこの卒業記念舞踏会だけには、顔を出すことを決めていた。
ここで断罪される私を見れば、エルダン第二王子も気づくはずだ。私がとんでもない令嬢であると。彼の中では、私は才女認定されていたかもしれない。だが実際は、ただの陰湿令嬢だと理解し、ライバルとしての興味も失くしてくれるだろうと思ったのだ。
よって卒業記念舞踏会でなら会ってもいいですよ、と返事をしようとしたものの。在宅学習で、すっかり引きこもりになっていた私は、やはりエルダン第二王子と会うのが、面倒だな~と思ってしまった。そして「コラッツ予想」程ではないが、意地悪な条件を手紙に書き足したのだ。
「スカリア男爵令嬢に嫌がらせをしていた人物を、捕まえてください。そうすれば卒業記念舞踏会で、エルダン第二王子殿下と対面でお話しします」と。
この手紙をエルダン第二王子に送りつけたのは、卒業記念舞踏会の前日。まず見つけられないだろうと思ったのだ。
ところがどっこい、まさかリアーナに嫌がらせをしていた人物を見つけるとは!
秀才改め、天才なのかもしれない。
その天才エルダン第二王子は、秀麗な笑顔で私を見る。
ヒロインの攻略対象ではなく、文字情報しかなかったエルダン第二王子であるが、よく見ると実に整った綺麗な顔をしていた。
「わたしが証人になろう。さあ、君の価値を分からない、くだらないこの男とは、キッパリ別れるがいい」
確かにでっち上げで婚約破棄をしようとしたティモシーに、温情をかける必要はない。何よりティモシーと結婚したところで、幸せになれる気がしなかった。それにこの国の第二王子が証人となり、ティモシーとの縁をバッサリ切ればいいと言ってくれたのだ。
それならば、遠慮なく、だろう。
既にドアマットヒロインは、ハッピーエンドを手に入れている。私は皆の前で、婚約破棄もつきつけられているのだ。悪役令嬢としての役目は、果たしただろう。まさか私がここでざまぁをすることになるとは、思わなかったけれど……。
「ティモシー様」
「モニカ、頼む。思い留まってくれ。君はこの国で一番力のある、ランドン公爵家の、公爵夫人になれるんだぞ!」
ここに来ても自身の地位をひけらかすティモシーには、さすがにウンザリした。
「ティモシー様は、私の名誉を傷つけ、浮気もなさったわけです。しかもお金を使い、下級生を動かし、スカリア男爵令嬢に危害を加えようとしました。自分が有利になるよう、偽の証拠をでっちあげましたよね? しかも交際を嫌がるスカリア男爵令嬢を脅し、無理矢理自分につなぎとめようとした。……男として、最低だと思います」
「モ、モニカ、そんな……」
ドレスにすがろうとするティモシーを、エルダン第二王子の近衛騎士が押さえた。
一度深呼吸をして、私は高らかと告げた。
「モニカ・ベス・ハサウェイはここに、ティモシー・ランドンと婚約破棄することを宣言します」
エルダン第二王子が拍手をすると、そこにいた貴族は一斉にそれにならう。ホールには拍手の音が反響している。ティモシーは、イケメンとは思えないヒドイ表情で「ふざけるな!」と嘆くが、後の祭り。これでティモシーの名誉は地に落ち、婚約契約書に記載されている違約金と賠償金を、我が家に支払うことになるだろう。
「ハサウェイ伯爵令嬢。ずっと。ずっと君に、会いたいと思っていました。ようやくお会いすることができ、光栄です」
スカッとし、まさに気分爽快の私の手を、エルダン第二王子が恭しくとる。アイスシルバーのサラサラの前髪を揺らし、アクアグリーンの瞳を細めるエルダン第二王子は、やはり攻略対象かと思うぐらい、端正な顔立ちをしていた。
「今日は、砂山のパラドックスについて話しましょうか。いや、今日は愛の二律背反について話したいかな」
砂山のパラドックスとは、砂山から砂粒を一粒ずつ取り除いていくと、砂山はいつ砂山ではなくなるか……という疑問を提示する哲学的な問題のことだ。
でも、愛の二律背反って何かしら? 聞いたことがないわ。
そんなことを思いながら、聡明なエルダン第二王子にエスコートされ、私はホールを後にした。
~ fin. ~
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