07:騎士団に来ないか?
世界中が悪役令嬢と蔑んでくる中で、ディーンは俺を信じると言った。
「え? そ、そうか? それは、ありがたいんだけど……なんでだ? 俺とはちょっと話しただけで、それに相手は人類の英雄さまだぜ?」
なのに俺を信じるなんて変なヤツだと思う。
勇者パーティを追放されて国に帰ってきて、俺はいろんな人たちと話をした。
レオンの理不尽な追放を説明した。
俺は被害者なんだって弁明した。
でも俺の言葉を信じてくれた人は一人もいなかった。
それだけ勇者の名前は偉大なんだ。
盲目的に信用に値する存在だと決めつけている。
それなのに、なんで出会ったばかりのこの男が俺を信じられる?
「そ、それは……き、ききき、きむっ、きむの……!」
きむの……?
「君の笑顔が素敵だからだ!!!!」
ひどく噛みまくったあげく、ディーンはそう言い放った。
「笑顔……? あはっ、あははははは!! なんだよ、それ!?」
なんて根拠のない言葉だろう。
意味不明すぎて笑えてくる。
「あはははは! あははははははははは!!」
笑いすぎて涙が出る。
「あー、笑った! 笑いすぎて泣けちまったよ。ハラいてー……あれ?」
涙が止まらない。
「えっと、俺……なんでだ……?」
なんで涙が出てくるのか自分でも分からない。
そんな俺にディーンはハンカチをそっと渡してくれる。
「安心したんじゃないか? 誰か一人でも良い。自分の事を信じてくれる人がいる……それだけで救われる時もある」
「わかんねぇ」
マジでわからん。
なんだ、これ。
「俺の昔話をしても良いか?」
「うん」
ディーンは静かに話し始めた。
「俺は子供の頃から体が強くてね。ただの体質なんだろうけど、本当に大人よりも強かったよ」
父親が村の剣術道場をやっていたディーンは、父親に憧れるように剣の道を目指した。
才能はあったらしく、誰もがディーンの剣を褒めた。
「剣の腕は俺の自慢だったよ。それから子供ながらに調子に乗ってさ、王都に飛び出したんだ」
ディーンは剣の最高峰、王国騎士を目指した。
騎士の中の騎士と呼ばれ、王に使える最上級の騎士だ。
そのための養成学校に通い、そこでも負けなし。
だけどいつからか、その力を嫉むヤツらが現れ始めた。
『あいつは魔剣と契約した卑怯者だ!』
「そんなバカみたいな噂が流れ始めたのは入学してすぐだったよ。体が成熟してきて、俺が教師たちよりも強くなった頃……そんな話を大人たちまで信じるようになっていた」
ディーンがいくら反論しても誰にも響くことはなく、どんどん孤立していった。
友達も、助けてくれる教師もいない。
「この世界のどこにも自分の居場所がない気がしたよ。本当はそんなことなんてないし、村に帰れば良いだけだったんだろうけどさ、心が追い詰められるとそんな事も分かんなくなるんだよな。頭の中が真っ暗になって何も見えなくなっちまう」
そしてディーンは養成学校を退学した。
「それから偶然、ペローンの街で騎士団に拾われたのさ。たまたま良い人たちに囲まれたんだ。俺を信じてくれる人に出会た……そのおかげで今の俺がいる」
ディーンの過去は今の俺と良く似ていた。
有りもしない噂話のせいで悪役令嬢なんて言われて、誰にも信じてもらえずに、居場所を失って焼き払われた故郷に戻って来たんだ。
世界のどこにも居場所がない。
世界の誰も自分の事なんて信じてはくれない。
今だって「ディーンに信じてもらえること」すら信じられずにいたんだ。
誰にも信じてもらえずに。
誰にも信じられずに。
居場所をすらも失って。
その寂しさを埋めてくれるヤツが現れてホッとしているらしい。
迷子の子供が親を見つけた途端に泣き出すみたいに、安心して泣いている。
「アシエ、騎士団に来ないか?」
「え?」
「騎士団にも魔術師はいる。勇者たちを支えて来た君の力は大歓迎さ! それに、ペローンは良い町だよ。王都に比べれば田舎だけど、人が温かい」
「でも、俺みたいな悪役令嬢なんて……」
「君の立場は分かっているつもりだ。昨日のフェニックスの一件で、この村にすごい農家がいるってことは知れ渡っただろう。でも君の名前までは知らない……もし知っても、俺が守る!!」
新しい居場所か。
悪くないかも知れないな。
「少し、時間をくれ……ゆっくり考えたいんだ」
「もちろんだ。俺はいつでも待っている」
「あと、それから……」
俺はグイとディーンの耳元に口を寄せる。
「ここでの事は2人だけの秘密ってことで頼むぜ?」
そう耳打ちすると……ディーンは顔を真っ赤にして気絶してしまったのだった。
『『『だ、団長ーーーーーーっっっ!!!!』』』』
あっ。
こいつらの事、忘れてた。
……秘密なんて無理っぽいなぁ。
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