02:ドラゴンくらい倒せないと
それから一週間。
俺は勇者パーティを抜けて故郷の村に戻って来た。
「あいかわらず見事なくらい焼け野原だなぁ」
俺が生まれたバジレ村はモンスターに焼かれて見事に消滅している。
今は村だった土地が焼け野原として残っているだけだ。
俺はこの田舎の村に生まれ、村を追われて王都ジャンバティスタの隅にあるグレイタウン……つまりスラム街に逃げ延びた。
そこで魔術師に出会い、俺は魔術に目覚めた。
たまたま俺には魔術師の才能があったらしい。
それから冒険者になって、そして勇者たちのパーティに拾われたってワケだ。
今では「勇者たちをたぶらかしてパーティから追放された悪役令嬢(♂)」としてギルドでも噂になってしまい、とても王都にはいられなくなってしまった。
魔王を討伐した勇者として伝説には名が残らなくなった俺だが、かわりに吟遊詩人の詩に新しい時代の悪役令嬢として名を残す事になりそうだ。
「だからってこんな村に戻って来ることもなかったか……マジで何もねぇ」
聞いた話によるとこの土地ではドラゴンの呪いとかで作物も育たないらしい。
村を焼いたドラゴンはよっぽどヤベードラゴンだったんだろうな。
「ま、なんとかなるか」
俺だって勇者パーティのサポート役として魔術を磨いてきたんだからな。
「サポート魔術、全開!!!!!!」
まずは土地全体に神の祝福で呪いを解く『ディスペル』をかける。
そして身体能力を強化する『ビルドアップ』を自分にかけながら農業を開始。
「うおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺の好きな甘くてデッカいイチゴで土地を埋め尽くしてやるぜえええええええええ!!
なんてやってさらに一週間。
「すごいことになったな……」
畑は想像していたのと違う感じになっていた。
まず地面に生えるハズのイチゴが樹になっている。
「大樹に生えるイチゴなんて聞いたことないけど、うまい」
真っ赤なイチゴは果肉が厚く、みずみずしい。
しっかりとした甘さのなかにほんのりと残る酸味が絶妙で、そのまま食べるだけでもめちゃくちゃ美味い。
肥料の代わりに神聖魔術の『ブレス』をかけたりしていた成果かもな。
なんかいろいろ祝福で守ってくれる魔術だ。
「……これは、やるしかないな!!」
俺には夢があった。
まだ村にいた頃、行商人から買った魔法みたいな食べ物……その名もイチゴパフェ。
アレを再現し、いつかは村にカフェという店を作る。
それが子供のころの夢だった。
村では料理人は女の仕事なんて言われていて、俺が子供の頃から女みたいな顔だったのもあってみんなにバカにされてたな。
もう今はバカにする人間すらいないんだけど。
「っていうか、マジで誰も人がいねぇ」
さすが呪われた土地なんて言われるだけある。
でもここは隣国から王都に続く道に近いため、行商人など通行人は多いハズだ。
「そうだな……旅の人間を相手にすればなんとかカフェが作れるんじゃないか!? うん、なんかいけそうな気がする! そうと決まればさっそく……」
まずは店を作る!!
俺が寝泊まりしているこのボロ小屋を改築して、立派なカフェにしてやるぜ!!
『君は自分の幸せを考えるんだな!!』
憎たらしい勇者さまもそう言ってたからな。
好き勝手やらせてもらおう。
「きゃああああああ!?!?!?」
誰かの悲鳴が聞こえたのは、そうやって自分に『ビルドアップ』をかけたタイミングだった。
「お? さっそく通行人じゃん! ちょっと助けて恩でも売っとくか!!」
ちょうど身体能力を強化した所だから超音速でダッシュ!
するとどうやら、なんだか馬車が襲われてるっぽい現場を発見した。
「ってドラゴンんんんんんんんんんんんんんん!?!?!?!?」
馬車の上にはデッカい真っ黒なドラゴン!
こんなのに襲われたら、そりゃ悲鳴も上げるってもんだな。
ドラゴンはモンスターの中でも最強クラスの凶悪なモンスターだ。
1体で国を滅ぼしたなんて逸話がいくつもある。
「けど、まだこっちには気づいてないか。だったら、倒せない相手じゃないな……『ヘル・フレイム』!!」
「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!?!?!?!?」
俺は究極火炎魔術で地獄の炎を再現し、マグマの中を泳ぐと言われるドラゴンの炎を焼き尽くした。
うん、鱗どころか丸焼きになったな。
ドラゴンの丸焼きが完成しちゃってる。
不意打ち成功。
正面からだと勇者パーティでも苦戦するドラゴンだけど、なんか魔術の相性が良かったみたいだ。
ラッキー。
「おーい、大丈夫か? ……死んでる!?!?」
中にはお姫様みたいな少女が白目をむいて倒れていた。
胸に耳をあてると、まだ鼓動がする。
「良かった……『ヒール』!」
「ハッ!?」
回復魔術をかけてやると、少女はガバッと跳ね起きた。
「あ、あれ!? 私、いきてる!?!? って、ドラゴンは……丸焼きになってるうううううう!?!?」
「おう、無事でよかったよ」
「え? 誰!?」
「俺はアシエ・ノプテル。この村の……村長だ」
この村には俺しか村人がいないからな。
俺がトップと名乗っても問題ないよね?
「あ、ありがとうございます村長さん! あなたがドラゴンを!?」
少女が深く頭を下げる。
銀色の少女だった。
髪も、眼も、月のように綺麗な銀色をしている。
本当にお姫様みたいだ。
「まぁな。この村の人間ならドラゴンくらい倒せないと生きていけないから」
「ヤバイ村ですね!?!?」
だってドラゴンに滅ぼされた村だからな。
またいつか襲われるかもとは思っていたが、予想より100倍早い再会だった。
そして短い再会だったよ。
「ハッ……危ないところを助けていただいてありがとうございます! このお礼はいつか必ず……ですが今は急いでいるのですみません!!」
「おう、別に気にしなくていいけど」
「って、あぁ! 馬車が! 王都ジャンバティスタに急がなければいけないのに!!」
お姫様は服が汚れているのも気にせずにワタワタと馬車の周りをグルグルする。
どうやら急いでいるらしいが、そんなことをしても馬車は直らない。
「ふむ、困ってるみたいだな。手を貸そうか?」
ジイちゃんも「困っている人は助けるべし」って言ってたからな。
それに恩を売っておけばいつかカフェをオープンしたときにお客さんになってくれるかも!
「え? でも馬車がないと王都まではとても遠すぎて……」
「連れて行くだけなら楽勝だよ」
「え? ひゃ!?」
「ちょいと失礼」
俺は少女を抱きかかえて魔術を使う。
「『ビルドアップ』&『クロックアップ』」
「ひゃ、ひゃあああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
俺自身に身体強化&超高速化。
ここから王都までは馬車で3日かかるが、この状態の俺なら一晩だ。
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