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作者: 杉谷馬場生

 眠れない。

明日は出張で早くに起きなければいけない。なので早くベッドに入ったのだがそれがいけなかったのか、なかなか寝付く事ができない。

習慣化というのは時に邪魔なものだと痛感する。ベッドの中で寝返りをうちながら眠れぬ自分にイライラする。こうなることを知っていたのならいつもの時間に寝た方がいくらかマシだった。

この際起きて少し酒でも飲もうかと思うが、起きてしまったらまた眠れないかもしれない。ましてや酒でも入ろうものなら逆に覚醒を促すことにもなりかねない。

時計を見る。既に日付は変わっていた。今寝ついたとしても数時間しか寝れないではないか。快眠という希望は絶たれた。

必死に目を瞑る。しかし邪念が頭からぐにゃぐにゃと湧き出てきて眠れない。このままだと眠れぬまま朝を迎えるかもしれない。それよりかは幾分か寝ておきたい。そんなことを考える。この考える事がいけないのだ。何も考えず、眠ることだけに集中しよう。

しかしそれも難儀なことなのだ。せめて大したことのない、脳に負担のかからない考えを脳に満たすことはできないものか。

そうだ。昔から言われているアレはどうだろう。やったことはないが大した負担にもならず、意味不明で眠れるかもしれない。

私は羊を数えることにした。もはや最後の賭けだ。これで眠れなかったらどうにでもなれ。私は頭の中で羊を数え始めた。

羊が1匹。

頭の中に羊が現れる。ふわふわした毛に覆われた、優しい瞳の羊である。この映像も当然私が想像した羊に過ぎないのだが、なんとも可愛らしい。

羊が2匹。

もう1匹現れる。1匹目と同様に可愛らしい顔つきだ。足元の草を食んでいる。

そうして羊を想像しながら数えていく。頭の中には羊たちが可愛らしい視線でこちらを見ている。なんとも平和で柔らかな心地になり、これは眠れるのではないかと思ったのだが、段々と羊が増えてきた。数えているので増えるのは当然なのだが、視界(脳内なのだが)が羊ばっかりだ。癒しの風景がどんどんとやかましくなってくる。羊たちも窮屈になってきたのか、メェメェと鳴き始めた。

これは出口を作ってやらねばなるまい。私は羊を86匹まで数えたところで羊とは別の数を数えた。

羊飼いが1人。

映像の中に羊飼いが現れる。羊が入った柵に出口を作ると沢山いた羊を誘導して次々と放牧していく。映像の中に窮屈感が無くなった。広々としておおらかな気持ちになる。これだと眠れるかもしれない。私は改めて続きを数え始める。

羊が87匹。

羊が現れた。ふわふわの体で優しくこちらを見ている。羊飼いに促されて柵の外に移動する。

うん。こんな感じでいい。テンポよく行こう。

羊が88匹。

羊が現れる。しかし今度の羊はふわふわではない。毛は綺麗さっぱりと刈られていた。そんな季節ではないだろう。羊飼いはブルブル震える羊を柵の外にやるが羊が気になりすぎる。

羊が89匹。

羊が現れる。また毛を刈られた羊だ。しかしさっきの羊と違うのはセーターを着ている。寒かろうと察したのだろうが、ならばなぜ刈ったのか。セーター姿は可愛いがやはり気になる。もっと普通の羊を見せてくれ。

羊が90匹。

良かった。普通のふわふわの羊だ。しかしよく見ると変だ。矢鱈と毛が浮いている感じがする。そう思うと羊の毛はすっぽりと抜けた。どうやらそっくりのセーターらしい。なぜわざわざそうするのか。私を眠らせてくれないのか。

羊が91匹。

頭頂部がモヒカンに刈られた羊が出てきた。耳にピアスをつけている。目つきが怖い。多分グレている。

羊が92匹。

君はヤギだ。

羊が93匹。

どうも顔つきがリアルでない。作り物のようだ。そして変に大きい。羊飼いがその羊を横に倒すと中から中年の男が2人出てきた。羊の仮装など眠りの妨げだ。そもそもお前らはなんなんだ。

羊が94匹。

二足歩行で出てきた。ビックリする。やめてくれ。

羊が95匹。

2匹出てきた。後ろの羊が「あっ」とうっかりした顔をしている。もういい。君96匹目。

羊が97匹。

ラム肉を持って羊飼いが出てきた。

美味しいかもしれないが加工前の元気な姿を見せて欲しい。

羊が98匹。

今度はマトンを持ってきた。

成育度合いの話ではない。今は眠りたいからお肉はいらない。

生きている羊がいい。

羊が99匹。

パンダ。なんでパンダ。

羊が100匹。

とうとう100匹も数えたのに私は眠れない。それに100匹目も現れない。私はほとほと疲れ果てた。脳内の映像には羊飼いが何もない草原に1人立っている。

「ウチの牧場は99匹しかいないんですよ」

そうか。それなら仕方がない。たとえ途中にヤギとかパンダとか加工済みとか現れていたとしてもそれらも含めて99匹ならなんの文句が言えようか。

「でもあなた、ウチの牧場にどうです?」

なんだ?この羊飼いは何を言っているのだ?

そう思っていると羊飼いはいつの間にか持っている手鏡を私に向けた。

まさか

まさか私は羊に

手鏡には小型犬が映っていた。

「羊じゃないじゃん!」

私は大声を出して突っ込んでその声で目が覚めた。

いつのまにか眠っていたらしい。

ただ思い切り寝坊していた。


 

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