高校生活404
ネクタイを締めた。
玄関のドアを開けて駐車場から自転車を出し、友人の家へと向かう。
私は友人と学校に行くため、友人の家のインターホンを毎朝押している。
友人の家は私の家から見て学校とは逆向きに位置しているのだが、彼が私の家へ来るのを待っているといくら時間があっても足らないので家同士が1軒またいで隣に位置していることもあり、私が毎朝呼び出しに向かっているのである。
しかし今は夜の手前。曇りがかったおそらくは冬の午後5時頃だろう。
青みがかった薄暗く白い空。夜の迫る寒い空気が私を刺している。
何故だか分からないが私は朝のルーティンである筈のインターホンを押す行動を狂気的な時間帯に行おうとしている。
理由は分からないがそれが今この瞬間では当たり前なのだ。
少なくとも私の脳はその行動を受け入れているし、その行動に関して一切の疑問も持っていない。
しかし時間帯以外に普段と異なることが2つある。
1つ目は玄関のドアが開いているということである。
私は高校1年生から現在までおよそ2年と7ヶ月間殆ど毎朝この玄関を見ているが、今まで1度もドアが開いていることは無かった。これは憂慮すべき事態である。
2つ目はこれこそ先程述べた1つ目の異常事態が意味をなさない程の異常事態であるが、
友人の家のリビングにはバンドの立派なセットと人影が見え、演奏が聞こえているのである。
その音楽は聞き覚えのあるものであり、私が中学時代を共に過ごした曲だった。
そしてそのバンドでドラムを演奏しているのは友人の父親である。ギターは細身の男でベースは見知らぬ子供だが顔はよく見えない。
友人の父親と見知らぬ子供と細身の男が何故私の身に染み付いた曲を演奏しているのかは分からない。だが私は玄関のドアが開いていること、玄関が直接リビングに繋がっており何故かバンドが演奏をしていること、演奏している曲が私の人格形成の一翼を担った曲であること、照明が焚かれていること、スモークが流れ出していること、ドラムが何故友人の父親なのかということ、何ひとつ現世の事象として辻褄が合わないこの状況に対し1ミリも疑問を抱かなかった。
私がこの状況に疑問を抱かないと言うよりも世界がこの状況を受け入れたと表現した方がこの感覚を正確に描写しているかもしれない。
とにかく私はその奇妙な状況に至って自然に迎合していたのである。
気づけば私はその演奏に高揚し、友人は私の隣にいた。信じられないことだがこれは紛うことなき事実である。
私は声の出る限りその歌を玄関先からリビングに向けて歌い。友人も隣で歌っていた。
この奇妙な状況は変わった。
今は教室である。記憶はないがおそらく登校して学校に着いたのだろう。時間は分からない。
だが当然のごとく私はこの状況に疑問を持たない。
すると目の前に紫色で毛むくじゃら。白目は黄色がかっていてギョロっとしている大きさは握りこぶし2つ分ほどの奇妙な生物が私の前に現れた。その奇妙な生物は私の机の上に置かれた菓子の箱の上に鎮座し私に傲慢たる態度で話しかけている。
私はその奇妙な生物を右手で掴み、黒板に向けて投げた。
その奇妙な生物は原理は分からないが投げつけられたとともに卵に還り、黒板の前に転がった。私はその卵を先程共に登校した友人のそばに向かってもう一度投げた。その卵は割れたが私はその卵の行く末を見る気にはならなかった。
割れた卵から出た物体は羽化する直前と言う形容の仕方以外浮かばない容貌の先程の奇妙な生物だったそうだ。