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第6話 いつもの『月島屋』

 誠達は本部を出てなじみの焼鳥屋『月島屋』にたどり着いた。


「いらっしゃい……今日は島田君達は?」


 女将の家村春子が四人を迎えた。


「ええまあ、技術部の連中はカラオケだってさ」


 先頭を肩で風を切って歩くかなめはそのまま春子の横を通り抜けてカウンターの端に座った。


 誠はその隣に座り、その隣にカウラとアメリアが腰を掛ける。


「じゃあ、とりあえずビールにする?」


「アタシはキープしてる『レモンハート』で」


 春子の問いにかなめはあっさりとそう答えた。


 すぐさまかなめの愛飲するラム酒の瓶とグラスが出てくるあたりが、いかに彼女がこの店に通いなれているか誠にもよくわかった。


「でも……焼鳥にラムって合うの?」


 ビールの中瓶を受け取りながらアメリアはかなめを見つめつつそう言った。


「それより、神前。貴様は何を頼むんだ?」


 無表情なカウラはそう言いながら誠の顔を覗き込んだ。


「え!えーと……とりあえず串盛り合わせで!」


 無遠慮に近づけられたカウラの端正な面差しに、誠は思わず頬を赤らめながらそう叫んだ。


「まだ夏は続くんだから……ちゃんと食べたほうがいいわよ。シシトウとポテトフライ。それにカシラとボンジリ!」


 アメリアが誠とカウラの間に流れた少しいい雰囲気をぶち壊すべく、そう叫びつつビールの注がれたグラスを誠に渡した。


「はい、運転手のベルガーさんは烏龍茶ね」


 春子はそう言って大きめのグラスに注がれた烏龍茶をカウラに差し出した。


「わかってます」


 『ハコスカ』を運転してきたカウラはそれを受け取ると静かに一すすりしてそのグラスをカウンターに置いた。


「それじゃあ、串焼き盛り合わせ!」


 春子は待っていたかのようにいつも頼む串焼き盛り合わせをカウンターに並べた。


「待ってたんですか?」


「いつものことよ」


 誠の問いに春子は笑顔で答える。


「それにしても……かなめちゃん」


 串焼き盛り合わせを受け取りながらアメリアは説教口調でそう言った。


「なんだよ」


 明らかに不機嫌そうにかなめはそう答えた。


「誠ちゃんを『下僕』扱いは……ちょっとね」


「なんだよ。こいつは東和共和国の『庶民』だろ?!親しみを込めて『下僕』と呼んでるんだから、まだましじゃねえか……ちゃんと人間扱いしてんぞ」


 ラム酒を飲みながらかなめはめんどくさそうにつぶやいた。


「さすがに『下僕』扱いは問題だぞ……貴族が嫌いだとか言ってる割りには矛盾している」


 烏龍茶を飲みながらカウラがつぶやく。


「そうよ!前の『近藤事件』で、誠ちゃんは大活躍したじゃないの!」


 アメリアはそう言ってネギまを口にくわえる。


「増長されたらたまんねえのはアタシとカウラだぞ。オメエには関係ねえだろ?」


 かなめは明らかに不服そうにそう言ってレバーを口にくわえた。


「誠ちゃんは『法術師』なの!うちでは貴重な戦力なのよ。ちゃんとした扱いしてあげないと……嫌われるわよ」


「何言ってんだ!上司なんて嫌われてなんぼだ!」


 挑発的なアメリアの言葉にかなめはムキになって言い返す。


「ちゃんと『相棒』くらいの扱いにしてあげないと……」


「私はそのつもりだぞ……私や貴様とは違う『力』があるんだ。敬意位持っても罰は当たるまい」


 アメリアの提案にカウラは静かにそう答えた。


「『相棒』?なんでこんな『落ちこぼれ』が?拳銃一つまともに撃てねえ役立たずなんだぞ」


 かなめはさらに怒りながらそう反論する。


「私は戦場を作る。そして、西園寺が撃ち神前が斬ってその結末をつける。私は西園寺と神前を同等に見ている」


 そう言ってカウラはトリ皮串を口にくわえた。


「アタシはスナイパーだ。間合いに入らねえと役に立たねえ格闘オンリーの誰かさんとは違うんだよ」


 話題を逸らすようにかなめはそう言った。


「でも、誠ちゃんは跳べるわよ。距離とか関係ないんじゃない?」


 アメリアはビールで喉を潤した後そう言って糸目で誠を見つめた。


「跳べるねえ……確かにそうだけどよう……」


 串焼きを口にくわえてかなめはそう言った。


「じゃあ、次の出動で誠ちゃんはその状況を作ればいいじゃない!敵のど真ん中に飛び込んで大暴れして時間を稼ぐとか……いろいろあるでしょ?」


 アメリアはそう言って誠の顔を覗き見た。


 誠は誰も構ってくれないのをいいことに、一人、串焼きを連続して口に運んでいるところだった。


「あの……僕にそんなことできるんでしょうか?」


 間抜けな調子でそう言った誠に、アメリアは呆れたような視線を送っていた。


「分かったよ。とりあえず人間扱いしてやる……まあすぐにメッキははげるだろうがな」


 かなめはそう言って葉巻をくゆらせる。誠はただ何もできずに笑っていることしかできなかった。

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