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第20話 ベテランの新兵

「これは奇遇ですね」 


 誠が廊下の先を見ると、そこに昨日風呂場で会った少年が立っていた。少年は手には大きめの黒いアタッシュケースのようなカバンを持ち他意の無い笑みを浮かべていた。


「こいつか?昨日、神前が見たって言う……」 


 失礼なのをわかっていてかなめが彼を指差す。


「西園寺中尉、お初にお目にかかります。僕は……」 


 昨日誠に向けてアンと名乗った少年の言葉にかなめのタレ目がすぐに殺気を帯びる。その迫力に思わずアンは口を噤んでしまった。


「おい!誰が中尉だ!アタシは大尉だ!」 


 いつもならすぐに殴るか蹴るかなめが不意に手を止めたことが誠には少しばかり不自然に見えた。アンは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。


「失礼しました、では西園寺大尉とお呼びするべきなんですね。そして第一小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉。運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ少佐。僕が……」 


「オメエ、少年兵ってにわかじゃねえな……物心ついた時から銃を撃ってた面だ……ベルルカンで何度か見た」 


 アンの言葉をさえぎって、不敵な笑いを浮かべながらかなめがそう言った。


「なぜそう思うんです?」 


 まるでその言葉を予想していたように、アンも頬の辺りに笑みを湛えている。誠にはかなめの言葉の意味がわからなかった。そんな誠とは関係なく得意げにかなめは話を続ける。


「なに、匂いだよ。それとそのかばん……ガンケースじゃん。後生大事に銃を持ち歩くってのは銃が無いと不安になる根っからの少年兵の悪い癖だ……直した方が良いぞ」 


 一呼吸置こう、そう考えているとでも言う様に、ロナルドは深呼吸をした。


「それについては否定も肯定もしませんよ。この中には僕の『友達』が入ってるんです」


「友達?銃が?」


 アメリアがけげんそうにそう尋ねた。


「大きさからみてカラシニコフだな。ベルルカンや遼大陸の内戦では普通に使われている。民兵御用達の銃って訳だな」


 カウラもまた少し警戒しながらアンを見つめていた。 


「銃だけが『友達』の少年兵……」


 誠は風呂で見たアンの銃創だらけの背中を思い出して少しばかり恐怖を覚えていた。


「それよりオメエさん、ただ顔見せに来たってわけか?ご苦労なこった」 


 せせら笑うようなかなめのいつもの表情にもアンはうろたえることもなかった。


「実は嵯峨隊長に会ってくれと言われました。もし馬が合わないようならそのまま帰ってもかまわないと言うことでしたが」 


 嵯峨らしい配慮である。誠はあの間抜けな顔をした部隊長がめんどくさそうに画像通信をしている場面を思い浮かべた。


「それでどうするつもりだ?帰るなら早いほうがいいぞ」 


 かなめがサングラスをずらして小柄なアンを見下ろした。


「いえいえ、帰るなんて。なかなかいい環境のようじゃないですか。それに司法局の本局で事前に聞いていたほど、お馬鹿な集まりじゃないと分かりましたし」 


 そんなアンの言葉にかなめは複雑な顔で黙り込む。


「そうよねえ、馬鹿なのはこの男子二人とかなめちゃんだけだもんね」 


 アメリアはそう言って島田、誠を眺めている。


「アメリア……本当にいっぺん死んで見るか?」 


 かなめがこぶしを握り締めてアメリアをにらみつける。アメリアはいつものようにすばやくかなめから遠ざかると誠の陰に隠れてかなめを覗き見るふりをした。


「アン……フルネームは?」 


「本当の名前は憶えていません。書類上はアン・ナン・パクとなっています。階級は軍曹です」 


 丁寧にそう答えるアンを皆がら誠はアンが手にしているガンケースの中身が気になってそわそわしていた。


「それではみなさん。本部に出頭するバスの出る時間なので……失礼します」 


 アンはペコリと頭を下げるとそのままロビーへと足を向けた。


「そうだな。では本部で会おうや……ベテランの新兵さん」 


 黒いガンケースを抱えたアンを見送りながらかなめはそうつぶやいた。


「隊の形ができたってことか」


「そうか?民兵上りはしつけが色々となあ……」


 カウラの言葉にかなめはめんどくさそうにそう答えてアンが去っていったロビーへと歩いていく。


「置いてくぞ!」


 振り返ったかなめの言葉に一同はようやく我に返ってロビーへ続く廊下を進んだ。

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