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遠い過去4
寝る間も惜しんで掘り続けた甲斐はあった。
何も知識のない主人でも、分かる。
いくつもの深い穴のは1つの成果に繋がった。
それは蝶を模した石。
奥が透けて見える黒の宝石。
早速家に戻り娘を見る。
毎日たかる虫を追いやるのもこれで最後だ。
「ははっ、今までの事を話したら飛び起きて叫ぶだろうな」
主人は娘の最後の言葉を口にする無意識だった。
『今まで、ありがとうございました。私は幸せでした。四季を知り、命を知り、人を知り。これ以上の使命も与えてくださった。まさに私は幸せでございました。貴方が与えてくださった愛は忘れません。どうか達者で』
「震えてたじゃないか。その涙は怖いからだからだろう。怖かったなぁ、今戻してやるからなあ」
主人は蝶の黒石の使い方なんて教わってはいなかったのに、使い方がわかった。導かれるように、自分の血を石に垂らしながら娘の心臓に埋め込んだ。
異常な光景。
死体とは言え、大事に大事にしていたその体を躊躇無く切り裂いてしまう。
鮮血は無い。
娘はドクンと心臓を跳ねらせた。