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遠い過去3
現代風の男、仮に偽空と呼称しよう。は主人を村へ誘った。
林の影から、何も変わらない村を見せる。
「飢饉は去りましたか」
主人は崩れ落ちた。
枯れた大地に男の涙程度では何も変わらない。
「地球は悲鳴をあげているのです」
「悲鳴?地球?」
「この足元のことですよ。この地は良い。力が眠っていますよ」
「水でも出てくるのか」
「フッ、そんなチンケなものでは無い。神はいないと言ったが、それに近い『権能』は有るんだよ」
偽空はそれだけを言い残して村から去っていった。
主人は藁にもすがる思いで地面を掘り続けた。
村人達は初めこそ声をかけたが、そのうち距離を置いた。
壊れた。
そう判断した。最愛の娘を神に昇華出来たとて心は休まらなかったのだと。弱い男だと。
何を言われ続けても主人は続けた。
何故ならば、娘の死体は日を追う事に腐敗していくのだから。
イノシシの肉と同じ。
娘の肉は娘に戻せるかは時間の問題だったからだ。