不幸は突然に
「なあ、空黒くないか?」
街中でとあるカップルの男が呟く。
「えっ?天気予報じゃ晴れるっていってたのに」
カップルの女は不安そうに言う。
「これ……雨雲か?」
よくよく見れば太い1本の線の様にも見える。
それは突然地面に向かって降りてくる。まるで意志を持つかのように蛇のようにうねりながら。
周りの人がパニックに陥り、倒れる人も出ている。
「おい、おいおいおい!なんかやべぇって!」
男は焦った様子で女の手を引く。
「う、うん。建物の中に入ろ」
2人がこの場所から出ようとした時視界が黒一色になる。
力が抜ける。繋いだ手の感覚が徐々に弱くなっていく。
男は女の場所を予測して弾き飛ばす。
女は辛うじて訳の分からない黒色から離れることが出来た。それでも繋いでいた右手の感覚がない。
恐る恐る自分の右腕を見る。
干からびたミイラのような腕が見える。
咄嗟に自分の腕だとは受け入れなれなかった。
しかし、確かに自分の1部だったものだ。
「いやああああああああああああああぁぁぁ!!!!」
女が叫ぶ。その声は周りの阿鼻叫喚で掻き消える。
謎の黒色が通り過ぎた。
女はそれでも精神をどうにか正常に保っていた。
極わずかな冷静な部分で男を探す。
辺りは地獄のようだった。
泣き叫ぶ声。怒号。動かない人が大勢いる。
女は男を探す。
「そんなに遠くに居ないはず……」
女は歩き出してなにかに躓いて転ぶ。
躓いたものを見ればそれは干からびた人だった。
女は声のない叫びを上げ瞳から涙を溢れさした。