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憤怒
それから色んな場所を回った。
思い出の場所だ。でも涙は枯れた。
キッチンに行けば楽しくお母様と料理した思い出が。
テラスに出ればお父様と紅茶を飲んでお喋りもした。
どれもこれも楽しく記憶だ。ふざけるな。私の全てを消したのは誰だ。
「復讐でもするつもりかい?」
声がした方へ手を伸ばす。黒霧が私の意を汲んで声を発した人物へ巨大な手となり迫る。
「危ない、危ない。危うく死ぬとこだったじゃないか」
さっきの声の人物はどうやら黒霧を躱したらしい。様子見を兼ねて答えてやる。
「殺すつもりだから問題ない」
私は隙なく何時でも黒霧を放てるように準備しておく。
男は嘲るように笑う。
「殺す?私が真相を知っていても?」
「なに?」
「付いてこい。お前とお前の一家に襲いかかった悲劇の真相を教えてやろう」
「その前に、あんたは誰?」
「ああ、申し遅れて申し訳ない。魔法使いのトーマスだ」
トーマスは手をヒラヒラと力なく揺らし見下したように自己紹介した。
なんだか、そこに居るのに居ないみたい。存在感は希薄だ、この人。