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記憶
ああ、あの部屋はお父様の書斎だ。よくお父様の本を借りに行った。
恐る恐る扉を開ける。
埃っぽい空気が舞い上がる。もう長い事手を付けられていない本たちは埃にまみれ表紙すら分からない。
「なんだ、乃愛か。おいで、こないだ貸した本どうだった?感想を聞かせてくれよ」
お父様が私に優しく話しかける。
扉に半分身を隠してお父様を伺っていた私はぱあっと笑顔を見せてお父様の元に行く。
でも、今目の前には何も無い。
優しくお父様の面影も、綺麗な思い出の部屋ですらない。
「……お父様」
屋敷に入ってからだんだんと記憶が戻りつつある。嫌な過去。
それらが嘘じゃないと証明されていく。
胸が締まり、奥歯をかみ締め拳を握る。
私は知らないといけない。例えどんな地獄のような現実でも。