偉業
魔法統括会の支部の支部長室にて、普段中々笑わない人の笑い声が聞こえてくる時、何事かと野次馬が殺到するもので、今回も例外に漏れなかったようだ。
「とうとう狂ってしまったか」
「まあ、無理もないよな。表に出てないけど裏で忙しそうだもんな」
と、心配しているのかしていないのか軽薄な感じの支部の魔法使い達。
彼らは彼らで仕事止まる?報告いる?誰に?
と、事態を楽観視している。
ランクで言えばクレアやブレットと同じ花の位。
「コソコソしてねぇで入れ」
扉の前で小声で話していたのにバレていたようでバツの悪そうな顔で入室する。
機嫌がいいのか悪いのか判別が付きにくい。
意を決して1人の魔法使いが聞く。
「あの、何かいい事でもありました?」
「いいこと……どうだろうな。なぁ、どう思う?ニーヴァ」
いつの間にか魔法使い達の後ろにいた星座の魔法使いに、魔法使い達は飛び退いた。
「表世界で何かあったわけ?」
「まぁ、そうだな」
「なによ、煮え切らないわね」
「報告書読んでみろよ」
「報告書?って、汚ったない字ね。報告主クレアだし。なになに?世界樹が確認されたァ?」
報告書を受け取ったニーヴァは素っ頓狂な声を上げてスプラウトに詰め寄る。
「世界樹って、創世術士の」
「ああ、錬金術で作っちゃったやつを間違えて使ったんだと」
「はぁ〜!?あんの馬鹿弟子がァ!!なんでティアを見張ってない!!」
魔法使い達は出てくる単語単語が普段ならば聞くこともない言葉だらけだし、こと話題に事欠かない「ティア」という錬金術士の名前が出てきて、まだかと思った。
そしてこの星座の魔法使い2名は、ティアを内弟子にしていると聞く。
偉業を成し遂げたことに喜ばしくも、計り知れない影響力とその後の対応とか巡りに巡って笑わずにはいられなかったみたいだ。
「なあ」
「ああ、俺たち」
「場違いで、とんでもない事に聞いちまったァ!」
「あ、しばらく他言無用だ」
「「は、はいィィィ!!!」」
冷めるような心臓を貫く視線と、声に魔力まで乗せた直接的な圧力をかけられては「はい」以外は言えず、この日この魔法使い達は、頑なに口を開かなかったそうだ。
その様子をあとから知ったスプラウトは「馬鹿どもが」と悩みの種が増えたことに頭を抱えた。