春夏冬のアトリエ
「ここにフラスコがあります」
「どっから出したんですか?」
「それはほら、説明が面倒だからスルーよ」
「は、はぁ……」
「この中の液体は何色ですか?」
「真っ黒」
「では、フラスコからでたら〜」
「えっ!なにす、る、んで……」
逆さまにすれば当然液体は零れる。
床をびちゃびちゃにするだけと思ったのでしょう。
しかし、そうはならず彼女は絶句した。
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最近何かと物騒だ。
あれだけ賑わっていて、静かな時は深夜くらいなものだったのに、今では常に寂しい程に静かで、冷たい。
忙しくてイライラしながらもお客さんの笑顔で乗り切ってたランチ時なんかがもう、元に戻らない思い出のようになってしまって悲しい。
こうなったのも突如世界に現れた『木』のせいだ。
本当にそうなのかなんて分からないけど、みんなそう言ってる。
そして、あの時から皆おかしくなった。
『魔法』なんて空想上のファンタジーがノンフィクションになった。
それは元々あって、私達が常に見落としていただけ。
突如人智を超えた力が宿ったらどうなるか。
考えるより先に答えが出た。
秩序が終わった。
初めは怖かった。けど思ったよりも何も無くて安心してたけど『陰陽師』を名乗る胡散臭い人達が仕切り始めた。
これに政府は何もしてくれず、そうこうしてるうちにありえない物が街に出るようになった。
それを陰陽師達は『魔物』と言った。
魔物からの脅威は陰陽師達が何とかしてくれた。
それで元の生活が戻るかと言えばNOだった。
1人、また1人とスタッフが辞めていきました。
店長やオーナーもこの店『春夏冬のアトリエ』というカフェを見限った。
そうして1人になった私は、珈琲と限られたメニューだけで続けていた。
続けても意味は無いし、そのうち資金も尽きて私も死ぬだろう。
それでも目を逸らし続けたかった。
理解できないから。
訳分からない事になった世界に私は着いて行けなくなっただけだと思う。