神父の異端審問官
「魔法、魔術の様な神秘は秘匿せねばならない」
夜闇に向かって洸々と演説をしている男。
神父のような見た目に反し、醜悪さを煮詰めたような歪んだ口元。
路地裏。人の通りはなく迷い込んだら抜け出すのも困難になりそうな場所である。
神父は怯え恐怖で身をかがめている男を見下している。
男はその目に雷を宿していた。
突然の出来事だったろう。なにせ、男には魔力が流れていない、一般人だからだ。
しかし、その目に雷を宿し魔眼となってしまった。
自然発生はしないだろうから人為的に引き起こされた悪意だ。その悪意に運悪く選ばれてしまったに過ぎない。
「魔法は高貴なるもの。世界は平和でなくては。そう思いますよね?」
神父はかがみ込み怯える男の髪の毛をつかみ視線を合わせる。
恐怖でイエスマンとなった男は訳が分からないままにコクコクと必死に頷いている。
「で、あるならば!!!」
神父は男の手を離し、丁度顔を見せた月に自身をアピールするが如く両手を広げる。
月光が神父を照らしスポットライトに当てられた舞台役者の様な演出を見せる。
「月の下死になさい」
か細い白い線が男へ直撃し跡形もなく消し飛んだ。
音もなく、ただ一瞬。
遠目には流れ星が降ったように見えるだろう。
「また1つ徳を重ねました。異端審に幸あれ」
コツコツと夜闇に紛れ姿を消した。
この街に新たなるイレギュラーが紛れ込む。
それはティア達に確実に、そして着実に振りに働く要素であり、運命を貪り食う。
「まずは、黒霧」
誰もいない。痕跡もない路地裏に言葉だけが残った。