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血に染まる小さい手
家の血痕から数ヶ月は経ってる。なのに、自己認識も出来ない赤子がどうして生きているのか。
そんな事はどうでも良かった。ハイハイもできない幼子なのに、その周りには血で出来た、出来の悪い泥人形の様な化け物が複数体居た。
甲斐甲斐しく世話をしている。視線がこちらに向けられた。眼窩は窪み、辛うじて人の顔を作ろうとしていた。その顔がじっと、見定めるように射抜く。
真冬の様な、高熱を出した時のような寒さが全身を包んで離さない。
理性は危険だと言っている。しかし、目に見えない何かに囚われたように動けない。
男が最後に脳裏に焼き付けたのは血に染った小さい手だった。