630/986
赤子
「あ〜、うぁ〜」
家の奥から赤子の鳴き声が聞こえてくる。
人っ子一人居ないと認識したこの家で、とても異質な音としてか細く、しかし、耳に残る声。
死臭を撒き散らし、正常な状態では無いからこそ、普通が浮き、気味悪く思えてしまう。
男は部下に見に行かせると、断末魔が響き渡り、より一層の沈黙が訪れる。
「なんなんだよ、なんだよ、ふざけんな!!!…………ふぅー、着いてこい」
ひとしきり叫び、冷静さを強引に取り戻して杖を顕現させる。何時でも魔法を発動できるように、魔法陣を2つも展開したまま、おそらく赤子がいるであろう部屋に向かう。