曇天
崩れ落ちた床、空中落下の最中に冬桜は落下地点の地面を『崩壊』し、砂のクッションを作る。
砂のクッションは自我があるかのように、冬桜を包み保護した。
リーナーは下に向けて風魔法を放ち、地面に落ちる間際に最大出力を一瞬だけ出して何とか着地する事が出来た。動揺が収まりきらないためか、いつもより魔法の制度が落ちていて、下手をすれば大怪我しかねない精神状態だ。未だに冬桜から目を離せないでいて、ドクドクと全身の血液の流れすら分かるほどに緊張していた。
ミホはふんわりと降りてくる。余裕があるが、感情の方は追いついていない。記憶が無くなっていて自身が何者か分からなかった。ある少女が安心をくれた。闘うことを教えてくれた人もいた。記憶がなくても、大丈夫だと。突然偉い地位になっちゃったけど、それでもこの人達について行こう、こういう生き方にしようと決めた途端に、過去の記憶が目の前に現れたのだ。
正直、どうすればいいか分からない。あの子を倒すべきか、それもと、対話を試みるか。しかし、あの子は私達を敵視している。かつての仲間だった子が。
あの子を地獄へ落とした本人と肩を並べて、覚えてない状態で、あの子を倒せる力を持ってしまっている。圧倒的に主導権を握れる状態なのに、何も出来なかった。
それぞれの思いがある三者三様の分厚い雲がかかる曇天の様な重たい空気が、この場の酸素すら奪ってしまっていそうだった。
誰かが少しでも動けば何かが本当に終わってしまいそうで、仕掛けた本人である冬桜もそれが理解できるのか、覚悟が決まっていたであろうに、それでも睨みつけたまま動かない。