梅
「あ、アレは初めて見る鉱石ですよ!行きましょう」
いつもここに来ても遠くから見てるだけでしたが、今は自分の意思で動き回ることができます。
そのせいで、気持ちが浮ついていました。
危険は無いものと思い込み、気になるものがあって飛び込んでしまいました。
「あ、待ちなさい!その付近はっ!」
「えっ?」
クレアちゃんが、私の死角からの魔物に気付いて私に声をかけながら、杖を構え、駆け出しました。
しかし、私が、視線を横に、魔物がいる所に向けた時には既に大きな爪が振り下ろされんと影を作っています。
間に合わない!全てが迂闊でした!
そう思うも、私は咄嗟に頭を抱えるくらいしかできません。
もうダメだ、そう思っても中々衝撃の1つも来ませんでした。
あれ?と思いながら目を開ければ、凛とした後ろ姿が私を守ってくれていました。
「…………遊びに来てるなら帰りなさいよ。ここは遊び場じゃないわ」
キッと油断なく周りを見ながら鋭い視線を私に向けてそう言います。
あれはジャパニーズ侍の刀です!
「あ、ありがとう」
「…………ふん」
刀を振ってさやに戻すとスタスタと私たちから離れていきました。
「行っちゃいました」
「厄介なのに借りを作ったわね。それにしても何でここに居るのかしら…………ってそうじゃなくて、ティア!貴女大丈夫!?」
クレアちゃんが小さくなる背中を見て、不思議そうにしていると思えば、私の方へ駆け寄って色んな所を見て回ります。
まず、顔に傷が出来てないか、腕、足と隅々までチェックされてしまいました。
「えへへっ」
「何笑ってんのよ!」
「クレアちゃんが心配してくれたぁー」
こう、仕草、声音、行動全てが私の心配に向けられると嬉しくなっちゃいます。
ニヘラニヘラと緩んだ顔をしてれば、クレアちゃんも何故か照れたようにそっぽを向いて、手を差し出してくれます。
「も、もう!少しは周りを見なさいよね」
「はーい、でもミルクショコラが居たから大丈夫だったと思うんですけどね」
クレアちゃんの手を取って立ち上がって、今にも全てを破壊しそうなミルクショコラに視線を向けます。
クレアちゃんは引きつった顔でミルクショコラに「お、落ち着いて、大丈夫だったから、ね?」と落ち着かせてくれます。
「そ、そう……その子達のポテンシャルは計り知れないわね」
「ところでさっきの子を知ってるんですか?」
「ええ、日ノ本 梅絶滅危惧種の陰陽師よ」
陰陽師!イギリスに居たとは……てっきり日本にしか存在しないと思ってました。
日本にいた頃も会うことは無かったですし。
「陰陽師。私と相性いいと思いますけどね」
「無駄よ、アイツなんて呼ばれてるか知ってる?孤高の札よ」
「札?」
「陰陽師が魔法を使う時に杖じゃなくて札を使うから、らしいわ。詳しくは知らないけど」
「へぇ、梅ちゃんね。ふふふふふ」
梅ちゃん、か。仲良くしたいですけど。
「な、何笑ってるのよ。怖いわよ?はぁ、もう用はないでしょ、帰るわよ」
「ああ、あの鉱石だけ…………あの子、次会ったら殺す」
目を付けていた鉱石がその場から無くなっていますね。モノクルで見た感じ、かなりの魔力保留量で、どんな素材の代替品になったのに。
私を助けたのは鉱石が私の傍にあって、壊されないようにするためだったという訳ですね。
次会ったらショコラに焼いてもらいましょう。
「ひっ、ああ、盗られたのね。おっかないなぁ、もう」
しかし、多分通常のあの門からここはクレアちゃんのリアクション的に遠い場所だと思うのですが、なんでここに居たのでしょうか。