師匠の言伝
「あー、ちょっと待ってくださいねー」
さて踏み出そうという時に待ったをかけるのは気が逸れますけど、大切なことがある気がします。
「今度はなに?」
前のめりになっていたクレアちゃんは声をかけられて転びかけます。
ムスッとした顔で私を見てきます。
怒ってますよアピールが可愛いです。
「いえ、師匠がなんか言ってた気がするんですよ。何でしたっけね」
「重要な事だったりしないわよね」
「どうだったでしょうか、重要かそうでないかの判断がつかない時に言われた気がして」
こう、喉の奥に突っかかるようなモヤモヤ感。
目をつぶって、頭をグリグリと刺激してもフワッと出ては消えていきます。
「……この辺の草すら素材として使うのかしらね」
必死に思い出そうとするティアをなんとも言えない表情で見ながら、クレアはその辺に生えてるどう見ても雑草を、価値あるものなのではと疑っていた。
「思いだしました!こっち来てください!」
「もう、忙しい子ね」
「そうですよ、何故か昔、お前が1人でここに来ることがあったら2本並んでる木の後ろにある物を使えって、言ってたんですよ」
目の前には大きな木が2本門番のようにどっしりと構えています。
なにか装飾がある訳でも、特別な感じがするでも無いただの木。
それでも近づけば木の周りだけ空気が冷たいです。
「へーって、重要な事だったじゃない!まるで、」
「ええ、いなくなる前提の話し方ですね。嫌になる。とは言え木の後ろってどっちの木だと思います?」
そう、居なくなった時を見据えた発言ですね。
そうなる事が確定してたのか、本当に万が一に備えてたのか。多分前者でしょう。
ここまで来れば、意図して私の前から居なくなったも同然です。腹も立ちます。
もうこれは1発殴って差し上げないと気がすみません。何がなんでも見つけ出してやるんだから。
「どっちも掘ればいいじゃない」
フツフツと怒りをその内に宿していれば、クレアちゃんは片方ではなく、両方掘って確かめればいいと言うでは無いですか。間違いなく、天才ですね。
「それもそうですね、ミルクショコラ!お願い!」
「クォーッ!」
ショコラは返事してくれるんですけど、ミルクは無口さんです。
御二方がフワフワ浮いて木の後ろの土を掘り返します。
そうして出てきたものは……
「コレは……」
「モノクル?」
片眼鏡でした。
しかし、レンズは膜のようなもので触れることはできません。
縁は黒いですが、光を通さないほど、深い闇。
首から下げれるような装飾が、してありました。