ドゥームズデイ・ブラック・シャドール
「おい、待て。許可証は持っているのか?」
壮大な壁に、一つだけの門。出入りは1箇所からの様で、長いローブを羽織った人に呼び止められます。
「許可証?」
「あー、そうだったわ。私は在学生だからあるけどアナタは……」
「ええー!私入れないんですか!?」
誰でも……。何となく色んなものが見れると思ってワクワクしていたし、なんなら師匠の事が分かるかもと思ってたのに。
それはそれは、ショックで、普段の声量の2倍は出ましたよ。
「何を当たり前をって、君、魔法使い?魔術師?」
「どっちも違いますね」
ローブの人がそう聞きますが、私はそのどちらでもありません。
師匠が言っていました、嘘は良くないと。嘘は。
なので、正直に答えましょう。
「あ、こらバカ!」
「ん?どういう事だ、場合によっては連行しないと」
クレアちゃんが私に向かって暴言を吐きましたね。
でも、何だか慌てた様子です。
常識というか、暗黙の了解とかがあったのでしょうか。まあ、正直に言いますけど。
「錬金術師ですよ」
「あー、バカ」
クレアちゃんが頭を抱えて、項垂れました。
「君、嘘は良くないよ。錬金術師なんて、才能がなきゃなれないんだから。もし、錬金術師だったら、統括会が放って置かないだろう」
ローブの人は全く信じてくれません。
二ーヴァさんが居れば話は早いのでしょうね。信頼って大切ですね。
もっとも、師匠がもっとちゃんとしっかりしてくれていればこんな目に遭わなかったと思うのですけれど。
「何を騒いでいる」
「あ、オーエン様!それが…………」
門で問答をしていれば目立ち、なんか偉そうな人が出てきました。
その人は初老っぽく、青い目と髭が印象的ですね。
目がつり上がっていて、怖そうな雰囲気があります。
実際に怖い人なのか、門を通る生徒らしき人達はビクビクしながら会釈だけして、早足に通り過ぎていきます。
ローブの人が、耳元で何か話していて、一通り終わったのか、初老の人がコッチに向き直りました。
背が高く、威圧的に感じてしまいます。
「なるほど。ふむ、錬金術師は1人で勝手になれるものじゃない。となると、師匠が居るはずだ。お前の師匠は誰だ?」
師匠の名前。
勿論覚えていますが、前に師匠は自分の名前を迂闊に呼んでは行けないと言っていましたけれど。
理由は結局分からずじまい。
そういえば、二ーヴァさんも、ストラウトさんも名前は避けてましたね。
「創成者の……名前って言って良いんですかね?」
「良い、私が責任を持とう」
無責任に責任を負っていただいたので、遠慮なく言ってしまいましょう!
「なら良かった。私の師匠はドゥームズデイ・ブラック・シャドールです」
私でも初めてフルネームで呼びました。何だか達成感というか、満足感で満たされて、私はニッコニコ。
周りは阿鼻叫喚。
「う、嘘」
クレアちゃんは私の顔を見て、ワナワナと震えて青ざめて。
「な、なんて名前を言うんだ!俺は聞いてないぞ、聞いてない!」
ローブの人は震え上がり、耳を塞いで喚きます。今更耳塞いでも無駄だと思いますし、聞いたことは無かったことにできませんけど。
「ほ、本当かね!?嘘だったらタダじゃすまんぞ!」
初老の人は、青ざめながらも厳つい顔で大声出していますけど、何だか様子が変ですね。
「なら、二ーヴァさんとか、ストラウトさんに確認してくださいな、私はティア・愛音・シャドール。気軽にティアと呼んでくださいね」
私は余裕をもって、淑女の礼を致します。
で、中には入れないんですかね。