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錬金釜へ再度意識を向ける。
もう全て感覚で動いています。魔力を使う量、代替品のミルクショコラの魔力。
ミラクルが兄弟子から受け取った知識があるとは言えど、未知の技。
いつからでしょう、こんなにも臆病な私になったのは。
初めて釜に触れた時、あの時は焦りで無我夢中でした。
フラッといなくなる師匠。あの師匠にしては有り得ないぐらいの部屋の綺麗さ。
ずっと、良いバランスだった日常が音を立てて崩れ落ちたあの時は。
あの時は何も無かった。
今は違う。守りたい人達がいる。支えてくれる人達がいる。本心は分からない。
でも、今この場に居ることを答えと思いたい。
心に一滴の雫が落ちた。
凪いだ水面に波紋が広がる。それはやがて激流となる。
錬金釜から冷気が迸る。渦を描き真っ白な世界へ移し替える。
辺りに拡がった冷気は逆再生された様に、私の掌へ収縮されていく。
「これが、氷の鈴蘭……」
不純物の無いガラス細工の様に全ての光を集め、自身から発する様は宝石。
氷で出来ているだけあってとても冷たい。
触れている場所は直ぐに赤くなって持っていられなくなりそう。
「ティア!!無事なの!?何が起きたの!?」
クレアちゃんの悲痛な叫びにも似た問に私はただ、私の錬金術を見せました。
全てを終わらせる錬金術を。