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獅子奮迅  作者: げんぶ
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80話 行方不明者 "上溝 源"


 11月30日22時15分。鎌足市北区にある大型ショッピングセンターが倒壊した。

 犯人として拘束されたのは一人の魔法使いだった。

 彼の名前は衣笠大。

 捕らえたのは魔法使いである松前斬院という男だった。


「松前、斬院か。」

 衣笠大は朦朧とする意識の中で目の前で椅子に座っている男に、視線を無理やり向けさせられていた。


「覚えていただいてくれて光栄です。衣笠大。

 いえ、第3位。眠気覚ましの運動にしては度が過ぎていますよ。」

 松前斬院は事件の報告を聞いて数分で駆け付け、衣笠大を無理やり拘束した。

 手足には普通の人間なら倒れる程の重傷を負ってなお、この男は薄ら笑みを浮かべている。


「そうか、俺は第3位か。

 そうか、そうか。第3位、ねぇ……?」

 衣笠大の感情が空間に満ち始める。

 感情は赤く、周囲を浸食するように衣笠大を中心として炎が広がり始める。


「気に入りませんか。なら前任者のように名前で呼びましょうか?」

 その松前斬院の言葉に反応し、周囲を浸食し始めた炎は弱まった。


 「あいつの生き様はどうだった?」

 衣笠大は真剣なまなざしで松前斬院に聞いた。


 「持っていたいた力に振り回され、私の弟子さえも振り回す男でした。

  しかし、彼の人間性なのですかね。見ていて気持ちの良い、ただの人間でしたよ。」

 松前斬院の言葉を聞いて衣笠大は満足したように、空間を満たしていた炎を消した。

 一切状況の分からぬまま、彼は得体の知れぬ敵と戦いながら目的を果たした。

 ならば、下らないことで力を消費しても意味がない。

 今の衣笠大は前の衣笠大よりも時間がないのだから。


「それで?

 どうしてあなたはショッピングセンターを倒壊させたのですか?」

 その言葉に衣笠大はしばらく沈黙した。


「挨拶だ。俺が戻ってきたって意味のな。

 安心しろ。次はもっと派手にやってやる。」


 衣笠大の言葉に嘘はなかった。

 だが、真実を語ってはいなかった。

 それが見破れない松前斬院でもなかった。


「まぁいいでしょう。話す気がない人間に何をしても無駄だ。」

「なんだ。分かっているじゃないか。松前殿。

 だが、迷惑はかけたようだ。このままだとフェアじゃない。

 これだけは教えておいてやる。俺の記憶は完全じゃない」


 衣笠大の言葉を聞いて、本を手に取り読んでいた松前斬院の手が止まった。


 「それは詳しく教えてくれるのですか?」

 

 衣笠大は首を横に振った。


 「俺の頭の中にはまだ靄がかかったままだ。

  まずはその靄をはらいたい。

  お前らが知りたい5年前の真実、知りたければ協力しろ。」


 松前斬院は大きな溜息をついて、衣笠大の方へ体を向ける。

 本来であれば強制的に衣笠大の記憶を取り出したいところだったが、それができない今の松前斬院は、彼に協力するしかなかった。


 「それであなたの希望は?」

 「行動制限の撤廃だ。」


 俺の体の前任者。第5位が行った行為、及びそこから予想される新たな衣笠大の脅威を考慮して魔法界、松前斬院は俺に行動制限と魔法の制限をかけた。俺はまだ第5位と違い、外界に対する理解が足りていない。まずは現状把握が先決だ。魔法使いや見習いとの戦闘はその次でいいというのが俺の考えだった。


 「いいでしょう。ただしそれをするにはいくつかの条件をのんでもらいます。」

 「条件?」

 「藍央学園への襲撃が徐々に迫ってきています。

  それまでにあなたには与えられた時間の間に私の仕事を手伝ってもらいます。」

 「仕事の内容は?」

 「一般人の保護です。」

 

 この町にいる一般人は各地から連れてこられた被害者というのを衣笠大は知っていた。

 その人間の保護をして欲しいというのは分かる。

 だがそれがこの男に与えられていた職務だとは予想外だった。


 「分かった。保護した後はどうすればいい?」

 「あなたの家に秘密の部屋があります。

  保護したらそこへまずお願いします。

  その後は私が何とかします。」


 松前斬院はパチンと指を鳴らした。

 同時に衣笠大の体を拘束していた鎖がほどけ、コンクリートの床に落ちる。


 床に落ちる体に力を入れ、重力に抵抗しようとしたが無理だった。

 衣笠大の体は床にそのまま崩れ落ちる。その傍に一枚の写真が捨てられていた。

 薄暗い部屋にある小さな光が写真に写る影を鮮明にしていく。

 そこには衣笠大と同い年くらいの青年の姿が映っていた。


 「彼の名前は”上溝源”。5年前にこの町へ連れてこられた。

  何の変哲もないただの一般人。彼を見つけて保護してほしいのです。」


 小柄で短い黒髪、学ランに身を包み、笑顔で笑っている印象の良い学生というのが写真に写る上溝源の第一印象だった。


 「彼は2年前に行方不明になりました。

  藍央学園が入学させようと彼に迫った結果彼は友人と逃亡。

  以後彼の行方がつかめなくなりました。」

 「おい松前。なんでこの上溝源とかいうガキを保護する?」

 「藍央学園が保護しようとする人物は彼らにとって優秀な兵器になりうるからです。」

 「兵器だと?」


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