表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獅子奮迅  作者: げんぶ
84/85

79話 衣笠大

 青年の最後の思考は無ではなかった。

 かつて手放した力にすがり、再び立ち上がった。

 少女を守る為に、町を魔法使いの魔の手から守る為に。

 それが5年という空白の時間を埋めようともがいた青年、衣笠大だった。

 だがいともたやすくその願いは押しつぶされた。

 青年の最後に残った思考は祈りだった。

 他者をねじ伏せる力ではない。

 魔法使いに対する報復ではない。

 失った時間の奪還ではない。


 青年は最後に走馬灯を見たのだろう。

 そこには4人の影がだった。

 穏やかな木々が演奏を奏で、衣笠大を歓迎する。

 日光が木陰を狭めていく。

 その場にいた衣笠大を含めた5人を飲み込むように。


 衣笠大は日光の眩しさに4人の顔をぼんやりと捉えることしかできなかった。

 4人の正体にそこでようやく衣笠大は気が付いた。

 いや、思い出した。


 「ごめん。」

 そして4人に対して謝罪の言葉を漏らす。


 「限界時間も近かったんだ。

 よく少ない時間でお前は必要な鍵をすべて手に入れてくれた。」

 一人が優しい声で励ましの言葉をかけ、さらに言葉を続ける。


 「第5位のお前だからこそできたことだ。

  お陰で俺たちも制限時間はあるがもう一度だけ動ける。

  恐らくこれが俺たちに残された最後のチャンスになる。

  お前が”衣笠大”という体を起こしてくれたお陰だ。」

 その言葉の意味が今の衣笠大には理解できた。

 “衣笠大”とは魔法界の一方的な目的があって起こされた存在だった。

 その為、多重人格者という魔法使いとして登録されている。

 

 この5人にはもともとある計画があった。

 それを達成する為にはまず魔法界側と手を組み、5人の意識を”衣笠大”という肉体に起こす必要がある。魔法界は自分たちの持つ記憶が欲しい。

 利害は一致していたが欠点があった。

 それは起こした人格にはそれまでの記憶が付随しないということだ。

 これを解決する為に、最初の一人は必ず瀕死体験をする必要があった。

 眠った人格が保存されている場所が瀕死体験をしなければ、残りの人格に接触できないようになっていたからだ。


 「次に起こされるのは俺の番だ。

  第一関門の突破は成功。後は任せろ。」

 一歩前に踏み出してきた大柄な影はすべてに存在感を感じさせる。

 俺と彼らすべてには恐らく名前があった。

 今はそこまで思い出せない。

 だが、いつか必ず。


 「ありがとう。

  それじゃあ、少し、ほんの少しだけ休むよ。」

 第5位として招かれた衣笠大だったものはそこで意識が遠ざかることに身を委ねた。

 死ではない。パスは繋がっている。

 時が立てば必ずまたあの大地に足を突き、そして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ