77話 模造品
薄墨渦は眉を顰めた。
衣笠大の特異性。蒼い炎を軸として魔法を行使する見習い魔法使い。だが彼の蒼い炎に飲み込まれれば、突如として。
「魔法の行使を不可能とするってやつかい。
その原理は一切不明。
だからこそお前は回収され、”衣笠大”は蘇生された。」
薄墨渦は衣笠大の特異性を口にする。
「そうだ。今俺が扱える魔法はこれだけだ。
だけどこの魔法はあんたらにとっては天敵だ。勝機はある。」
衣笠大は自身の魔法が薄墨渦、他の魔法使いに対して唯一対抗できる可能性のあるものだと理解していた。しかし、同時に自身の魔法の欠点も理解していた。
薄墨渦はその場に立ち尽くし、ただ衣笠大を見ていた。
衣笠大は右腕に金棒に縁の刃を纏わせ、鎌のような形へと変化させる。膝をまで、ばねを意識して地面を蹴り上げ薄墨渦へと突進する。金棒の刃を薄墨渦へ届ける為に、金棒を振り下ろそうと構えを変える。水しぶきが舞い上がり、衣笠大の進路を開く。
「馬鹿の一つ覚えのように突進ばかりとはね。」
小さい呟きの後に、薄墨渦はまじないを唱える。
「”block”」
純黒の障壁が進路をふさぐように突如として衣笠大の目前に出現した。
障壁に対して衣笠大は瞬時に鎌を振り下ろし、一刀切断した。
障壁を突破し、衣笠大はさらに加速する。
「”刃に灯れ。蒼は濁らず、深く、濃く。”」
衣笠大の言葉に金棒に生えた”縁”の刃に以前よりも色濃い蒼炎が勢いよく噴き出る。
再度金棒を構え直し、刃を水面に深く刻み込むように沈め水の底にある大地を引きずり、悲鳴を上げる。
両断された障壁が背後で爆散する。その爆風で衣笠大はさらに加速した。
薄墨渦までの距離約1m。
大地を引きずり、引き裂く刃は大地をさらに深くえぐり、引き抜かれたのは一瞬だった。
刃が大地より姿を現し、空中に円月を描く。
薄墨渦は縦に両断され、血しぶきをあげ水面にゆっくりと……。
「”cube”」
どこからともなく聞こえたその言葉。
それに呼応するように、薄墨渦だった二つの肉塊が二つの黒く四角い物体に変化する。
片割れの一つが衣笠大の目の前で姿を消す。
気づいた時には手遅れだった。
俺はその謎の四角い物体に前と後ろから同時に挟まれ、成すすべもなく虫のように潰された。
ぐしゃ。みちゃ。ぐちゅ。ばき。ぐぎゃ。
いろんなおとがきこえる。
なんのおとだろう。だれかのえんそうかな。
どこかで、だれかが、いろんながっきをつかって。
でもすきなおとじゃないな。ひどくきぶんがわるい。
よくないえんそうだ。でも、あたたかい。
「さようなら。イミテーション。」
二つの黒く、四角い物体は形を崩し、元の形を取り戻していく。
それが呟いた一言が、青年の耳には届くことは無かった。




