76話
心に宿した憤怒の炎が優しく、衣笠大の魂を撫でまわす。
舞台にこれ以上の役者は必要ない。
獲物も今用意できるだけの最高のものがそろった。
腕輪、体を這いまわる刃”縁”、そしてかつての己が残した遺産である金棒。
操る身体は変革を遂げた新たな肉体、そしてそれには魔法使いが持つと言われる刻印が刻まれている。
「妙なものを携えて何ができるっていうだい。
こけおどしの道具でない所をみせてもらうか!?」
薄墨渦が黒い魂から再生させた右腕を伸ばし、衣笠大の右腕を強く掴み握りつぶそうとした。
薄墨渦の黒い魂に汚染された右腕が膨張を始める。
それが何を引き起こす予兆なのか、衣笠大には直観的に理解した。
右腕を犠牲にした、爆破を引き起こす術。薄墨渦の右腕が赤みを帯びた光を灯し始める。
衣笠大はその場で両足を固定するように力を入れ、左腕で掴まれた右腕にとりついた薄墨渦の黒い右腕を引き千切ろうとする。だがその考えも甘かった。薄墨渦の右腕は衣笠大の左腕まで取り込もうと絡みついてくる。
「さぁ、これくらいどうとでもしてみせな!!」
薄墨渦が苦しんだ顔を見せる衣笠大に向かって挑発する。
「”蒼を灯せ!”」
衣笠大の声に彼の右腕に通された腕輪から蒼い炎が噴き出した。炎の勢いは止まることを知らず、炎は薄墨渦の右腕から彼女自身の体を一瞬で包み込んだ。薄墨渦には一瞬の出来事で炎を止めることを考える間もなかった。
同時に彼女の右腕は薄墨渦本体の危機を感知し、自動で爆破を決行した。
薄墨渦は全身を黒い魂で多い、蒼炎を消す手段をとった。彼女の場合消すというよりも取り込むという方が正しかった。
衣笠大の体は後方ではじけ飛んでいたが、どういう訳か外傷はあまりなかった。
その様子を見ながら薄墨渦は衣笠大が何を行ったのか考えることに思考を奪われかけた。
だがそれに歯止めをかけられることが起きていた。再生を施そうとした右腕が形を得るのを拒んだからだ。何度再生する魔法を使用してもその奇跡はおこらない。
「おまえ、何をした?」
薄墨渦は衣笠大を睨みつけ、真相を知ろうとする。
「あんた、俺の秘密を覚えているか?」




