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獅子奮迅  作者: げんぶ
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75話


 消失した青年は境界線を越えた。

 彼が手にした力はそういうものだった。

 現実を飛び越え、あらゆる領域に根を生やした魔法が繋ぐ空間。

 存在と無。生と死。それらが曖昧なグレーゾーンに青年は足を踏み入れる。

 まだ制御はできない。

 ただこの力を与えてくれたアルファという少女に導かれて力を振るえる。

 そして、導かれた空間には何もない。

 アルファと出会ったあの空間に近く、真っ白でなにもない。


 「よく来たね。再会というのは偶然やってくるもの。

  でも悪いね。今回は必然だ。

  説明もなにもなしに魔法というのは軽々しく使えるものではなくてね。」

 アルファの姿は何処にもない。だが彼女の声だけが空間に響き渡っている。


 「今の君では例え魔法を使えたとしても相手が彼女では力不足だ。

  でも勝てないとは言っていない。

  だからここに導いた。」

 

 アルファが言葉を終えると目の前に大きな大木が目の前に出現した。

 どこまで伸びているのか分からず、生い茂った葉と無数に散らばる枝。

 大木の横幅は軽く3mを超えているように見える。

 その大木の根元に大きな空洞があった。


 「奥に彼女が残した遺産がある。

  君たちの方では”縁”というんだったかな。」


 俺はアルファの言うものが木の空洞にあるのだと思い、足を進めた。

 空洞の奥には人の形をした石造が膝をついてこちらに何かを差し出すように、両手で一本の金属棒を持っていた。

 空洞の中にある金属なのか、石なのか。空洞のあちこちが光を生み出して金属棒を照らす。


 「君の知る”縁”は右足に埋め込まれた刃。

  石造が持っているそれは”縁”の役割を引き出してくれる。

  かつての衣笠大が使っていたそれだ。」


 かつての自分が使っていたもの。

なんでそんなものがこんなところにあるのか。

謎は多いが今はこれを現実に持ち帰るのが先決だということは分かる。


「使い方は君の得た魔法の”楽譜”を辿るんだ。

 音を鳴らし、奏でることを覚えた獅子の活劇を見せようじゃないか。」

アルファは俺に自身を持たせるように言葉を送ってくれた。


なら、答えなければならない。

傷つけられた少女の報復。

 そして過去に生きていた俺の知らない衣笠大ではなく、今を生きる衣笠大の存在証明をしよう。


 石造の持つ金属棒である”縁”の片割れを手にして、己の魂でそれを喰らう。

 喰らった縁を魂で読み込み、力を引き出せる楽譜を探し出す。

 楽譜を手に取り、開こうとした。

 開こうとする手を止めたものが俺の中にいた。


 アルファだった。


 アルファは右手でそのまま楽譜を取り上げてそのまま前を向いて歩きだしてしまった。


 「こいつの役目は私が受け持つよ。

  君にはまだその余裕はない。ここまで来たんだ、大丈夫だよ。

  君はやるべきことに集中するんだ。いいね?」


 俺は何となく、彼女がやろうとしてくれることが分かった気がして彼女を信じることにしてみた。


 薄墨渦は靄の広がる中で獲物を目と魔法探知を用いて探していた。

 現実から消失する魔法ならば再出現される空間は指定されているはず。

 戻ってくる際にそのエリアには必ずその兆候があると睨んでいたからだ。


 しかし、青年の帰還は薄墨渦が兆候をつかみ取る間を与えなかった。

 伸びた金属棒が薄墨渦を前方へ突き飛ばす。

 青年の帰還は華麗であり、不意を突かれたのもあって水辺から起き上がった薄墨渦の精神は彼女自身が気づかない程に逆撫でされていた。


 「さぁ、始めよう。」

 衣笠大は再戦の合図を放った。


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