8話
「魔法使いは魂を視る。
視た魂を見て魂を喰らい、自身の力、魔力を混ぜ合わせ、そして魔法という現象を引き起こす。
見える魂は個人差があり、見える魂しか魔法使いは食えない。
故に使える魔法は多種多様。今君にはどのような魂が見えますか。」
「こんな目なんだ、見えるわけがないだろう。」
「視力は関係ありません。君が忘れているだけです。」
斬院の言う通りだった。俺には魔法に関連する知識が抜け落ちていた。だが不自然なことがもうひとつあった。生き返る前の記憶が俺にはほとんど残っていなかった。思い出そうとするがあるはずの記憶に靄がかかっているようで邪魔をする。
「魂を喰うって、食われた奴はどうなるんだ?」
「食われ方によりますね。生き物の魂ならすべて食べられれば死ぬし、残せば死なない。」
「なら残された奴は弱っていくのか。」
「勿論。」
「食われた分の魂は元に戻らないのか。」
「時間が経てばある程度元に戻りますよ。もっと手っ取り早い手もありますけどね。」
ここまで聞くと魔法使いにとって魂の見える物はすべて養分に思えた。
食うか、食われるかの世界。おそらくその対象の中に人間も含まれている。
確かにそんなものがいれば認知している人間からすれば恐怖の対象でしかない。
「それで、その魔法使いであるお前は何者なんだよ。なんで俺を助けた。」
ここまでで魔法使いがどういう生き物なのかは分かった。
ならばこの男の目的を、立場を知らなければならない。
「俺が目を覚ました時はただの洋館の主人としか言わなかったよな。」
「私は魔法使いの管理人なのです。
いつ、どこに、どのような魔法使いがいるのかを把握するという役割を与えられている。
時には魔法使いを支援したり、共に行動をしたりする。
君を助けたのは旧知の友人からの頼みだったのでね、断れなかったんですよ。」
「旧知の友人?」
「高木八重を育てた魔法使いです。」
心臓が止まりそうになった。断片的な記憶がフラッシュバックする。だがはっきりとは思い出せない。その感覚の気持ち悪さに吐きそうになる。だが確かに俺は高木八重と交流があり、5年前に俺のすべてを動かした人物。その高木八重を育てた人間の頼みで俺は生かされた。妙な気持ちだ。
「そいつは今どこにいる?」
「現在行方不明で捜索中です。高木八重も含めてね。」
目が覚めて増える一方だった謎がようやく解けそうな手掛かりが手に入ったと思えば行方不明だと。ふざけていると思った。思いたかった。頭に血が上る事ばかりでストレスが溜まるばかり。斬院の正体はわかった。だがまだ俺は迷子だ。行き先がわからない、何をどうすればいいのか、答えが欲しい。自分の情けなさ、弱さに呆れるしかなかった。
「さて、今後の君の身の振り方です。表の世界で君は死んだことになっている。」
「それはどうも…ありがたいね。」
「だが死んだままでは都合が悪いでしょう?だからそうならないようにしておきました。」
「魔法で透明人間か?」
「惜しいです。一般人からあなたはもう衣笠大とは認識されない。
完全な別人として認識されるようにしておきました。」
「つまり俺がこれまで関わっていたかもしれない人間に会っても…?」
「衣笠大とは認識されません。」
都合がいい。
そうなっているのであれば自由に外を出歩けるし、自分の事を知ることができるかもしれない。
「この仕掛けを施したのには理由がいくつかあります。
君が表の世界でもある程度自由に生活できるようになるための支援。
そして魔法使いとそれにかかわる組織からの目くらまし。」
「目くらまし?」
「外で少し動けばわかる。その辺の話は美夜古君に教えるよう言ってあります。」
「あの女か…」
「君が普通の生活を選ぶのか、はたまた全く別の決断をするのか。
その為の準備は完了しています。
まぁ、しばらくは外の生活を楽しんでみるといい。美夜古君と"一緒にね"。」
「は?」