72話
異形の怪物が咆哮する。勝利に驕り、悦に浸る醜い小娘に現実を教えた。
死にゆく少女の肉体から流れる血を勝利の美酒として口内へ注ぐ。
失った魂を潤し、回復を行う。
異形の怪物は徐々に元の姿を、老婆の肉体を取り戻す。
「世話の掛かる馬鹿弟子だよ、まったく。
甘い誘いに乗せられて未熟なひな鳥が巣立ってどうなるかと思えば。
こうなっちまうとはね。」
弟子であった少女の肉体へ送る想いが徐々に薄れる。
それが少女の生存限界を示すように、ただ覚悟していたことが起こっただけだ。
「殺す必要、あったのか?」
怒れる瞳を宿した青年、いや衣笠大がこちらをじっとこちらを見る。
その瞳を薄墨渦は知っていた。
それを宿していたのは弟子の姉であった魔法使い。
彼女はかつて私が行っていた魔法使い狩りの不敗記録を打ち破った唯一の魔法使い。
私はその女に何度も挑戦を挑んだ。
「あなたは優しい人。
どうしてそこまで私を狙うの?」
彼女の言葉は優しく、気が安らぐのを自分でも感じるほど強い力を持っていた。
私も意味もなく魔法使い狩りを行っていたわけではなかった。
仕方がないと言えば言い訳になる。だが私にはその時、殺る以外選択肢がなかった。
最後に彼女と戦った時だ。
彼女の家にいた妹を人質にとった。
「分かりました。私はあなたを殺します。」
彼女の瞳に怒りが灯った瞬間だった。
言葉には深く重みが乗り、気圧された。この私が気圧された。
屈辱だった。
理由はどうあれ、年端のいかないたがだが18歳くらいの少女に何十年も魔法界で生き抜いてきた私がだぞ。そう思った時には体はバラバラにされていた。
あの少女の瞳と言葉を宿した衣笠大。
私は無意識に一歩引いていた。武者震いがした。
全身が、魂が高揚していた。何に対してかは分からない。
だが分かったことはただ一つ。
今ここで目の前にいる衣笠大という小僧を倒すということだ。




