70話
「今ある肉体にだけとらわれているから人は次に進めないんだよ。」
そう言って美夜古は合わせた手を放し、再度左手に黄金を髪から取り出す。
彼女は選んだ鍵を地に突き刺し、再度詠唱を行った
「お前はどうなんだい。
死者に引っ張られているお前が、そんなことを考えてどうする。」
薄墨渦は左腕を自身の正面で弦のように伸ばし、うねらせる。
美夜古との距離は約20m、武器はあらかじめ中距離の攻撃手段として左腕。近距離として右腕を用意する。右腕には黒い閃光が再度収束を開始していた。使えるのは一度。使ってしまえば再度使用可能になるのは数十秒後。
先に動いたのは美夜古だった。彼女は足が使っている小川の水を操作し、足を動く水に固定し水をボードのようにして薄墨渦へ接近戦を仕掛けに行った。薄墨渦へ向かう速度は徐々に上昇する。美夜古は右腕の白骨から蒼炎を噴出させ、それの形を短刀へと変質させた。
2人の距離が1m程に縮まった瞬間だった。薄墨渦が弦状となった左腕を美夜古の腰に巻きつかせた。
「purge!!」
薄墨渦の左腕が吹き飛んだ。爆風で美夜古の体が薄墨渦に迫る波となった水の後方へと吹き飛ばされる。美夜古は水を再度操作し直し空中で水をクッションにし、ゆっくりと小川の中へ沈んだ。
水しぶきが両者の体を包みこむ。靄が濃くなり視界の悪さがさらに悪化する。
その中から、得体の知れないものが小川の上で立ち尽くしている薄墨渦の視界に入った。
薄墨渦はそれらの動きを捉えきれなかった。同時に身に迫る危機感にさらされていたことに気づく。短刀を構える。左腕の再生にはまだ時間がかかる。
賭け事が嫌いな薄墨渦にとって一か八かという選択を迫られるのはこの上なく深いだった。だがそうさせられた以上、美夜古の奮戦を認めることもしなければならないこともまた事実だった。
「やるじゃないか馬鹿弟子。」
薄墨渦は周囲に溢れる靄や霧をパチンと指を鳴らし、魔法で掃った。
瞬間、自身の命を狙うもの正体を彼女は見た。
「久しぶりだねぇ……」
一瞬だけ現れた敵の正体に薄墨渦は同様してしまった。その正体にではない、この事実に同様した。全身が凍るような冷たさが肌をなでる。
薄墨渦の肉体は両断された。




