66話
「来るかい!?小娘ぇ!!!」
「私が怖いんでしょう?婆さん!!!」
薄墨渦と美夜古は互いに懐から短刀を取り出し、華麗に刃を交えて距離をとる。
遅れて色を持った衝撃派が飛んでくる。色は入り乱れていた。2色の赤と青の衝撃派。
赤は薄墨渦から青は美夜古からだった。
「気づいたか?
衝撃派が放つのに色が混じるのは魔法使いの中でも上級だ。
色は属性を表し得意な魔法を示す。」
深山錦が衝撃派の事を説明してくれたが、それどころではなかった。
美夜古が薄墨渦に向かって刃の連撃を放つ。交わす薄墨渦。彼女に杖をひっかけられて美夜古は数度転倒するも、すぐに立ち上がって体制を立て直し、再度連撃。これの繰り返し、たったこれだけの繰り返しなのに目で追うのがやっとだった。
「分かったと思うが美夜古の奴は相変わらず体術は未だに不得手のようだな。
薄墨渦は徹底的にそこを取りに来る。」
深山錦が両者の戦いを分析しながらくれる情報はありがたかった。出なければどちらが劣勢なのか判断できない。判断できない理由は幾つかある。二人ともまともな魔法を未だに使わず、近接戦に傾いている。そしてこの環境。美夜古が一方的にやられているのが引っ掛かった。
「動きが悪いぞ小娘ぇ!?
手数が多くても使えねぇとなぁ!?」
薄墨渦はかなり好戦的な性格のようだ。話していた時にピリピリしていた感覚を数度感じた。あれが、彼女が出していたものだったのならよく殺されずに済んだと思う。
「熱いよ、婆ちゃん。少し冷ましてあげる。」
美夜古は髪の中に手を伸ばし、大量の鍵が括り付けれた黄金の輪を取り出した。
「open」
美夜古はそう告げると地面に黄金の輪につけられていた鍵を一つ突き刺し捻った。
鍵と言えば何かを開けるイメージがある。美夜古は何かを地面から取り出す気なのだろうか。
「久しぶりに見るねぇ。
お前の一族の遺産。”エイジ”。姉ではなく、お前が受け取った意味。
さぁ、魅せてみな。」
美夜古の背後から白い角の生えた白馬が現れた。
「ユニコーン。失われた幻想種、そのまがい物かい。
美しいぃねぇ。そして、醜い。」
ユニコーンは美夜古の傍に近寄った。主人の期待に応えるため、願いを聞き届けるため、そして少女の気持ちを知るために。白馬は血塗られた刃に首を朱色に染められ、大地に散った。少女は白馬に願うように曇った空を見上げ、朱色の雨粒に身を捧げた。崩れ落ちた白馬の肉体は頭部を残し大地に消えた。
「懐かしい光景だ。小さい頃のお前は美しく、歪んでいた。
その歪んだ心で何を見る。何を見たい。何を見定めるつもりでいる。」
薄墨渦の問いに美夜古はゆっくりと答えるように呟いた。
「壊すんだよ。全部壊すの。
壊して、現実を手に入れる!」
青い衝撃派が美夜古から飛んでくる。
「transient」
美夜古のその言葉と同時にユニコーンの頭部の肉が解け、白骨だけが残る。ユニコーンの白骨に青白い炎が美夜古の言葉に応えるように灯る。炎の勢いは徐々に増し、それを美夜古は拾い上げ、右腕にはめ込んだ。白骨の口から青白い炎が噴き出される。
「魂狩りの時間、始めるよ。」
「やってみなね、小娘」




