65話
その後、店の奥へと薄墨渦に案内されある個室へ連れていかれた。
深山錦の家と同じで中の空間は歪んでいるようでかなり入り組んだ設計になっているようだ。
数十分後に不機嫌そうな表情で車椅子に乗って松前美夜古が俺たちの前に姿を現した。
「久しぶりだねぇ、”元”糞弟子。」
元の部分を強調し煽るような口調で薄墨渦は美夜古に声をかけた。
「師匠も変わりないようで何よりです。
下らない研究は捗っていますか?」
同じように煽り口調で美夜古も薄墨渦を挑発した。
個室に案内される前に深山錦から薄墨渦と美夜古の関係を大雑把に聞いた。幼いころからの師弟関係だったそうだが5年前に俺だった衣笠大に関係する事件とセブンスロスト発生する以前には師弟は解消されていたらしい。噂によると薄墨渦の研究内容に対して美夜古が反感を持つようになったことがきっかけなんだとか。その後、美夜古は松前斬院と師弟関係を結び現在は薄墨渦と関係は完全に断ち切っているということになっているようだ。
「私と縁を切ると言ったあなたがどうして今頃私に?」
薄墨渦は美夜古の言葉に薄ら笑みを浮かべた。
「松前とかいう相性の悪い所に行って成長しているかも知れない弟子の様子が気になってね。」
美夜古は反論しなかった。
「その様子じゃまともな成長はなかったようだね。
まぁいい。美夜古、少し私の相手をしな。」
「は?」
「そんな恰好でお前が戦えない訳がない。
違うかい?」
「知ったような口で……」
空間が歪み、霧の濃い渓谷に空間が切り替わった。鳥の囀りがどこからか聞こえ、師もとには小川が広がる。草木が深く根付いており気分が落ち着くような空間。だが濃い霧のせいで視界がかなり悪く2人の戦いを捉えられるか不安になる。
「錦、衣笠に目を与えてやりな。脱皮したばかりなんだろうそれは?」
薄墨の言葉を聞いて深山錦は指をパチンとならす。急に視界が良くなり、二人の魂がはっきりと捉えられるようになった。
「俺が今見ているものをお前に見せている。見逃すなよ小僧?
これから始まるのが魔法の現代戦だ。」
車椅子に座る美夜古は両腕に腕輪を嵌め、ゆっくりと薄墨渦と距離をとった。
「衣笠、お前が欲しがっているものが何なのか想像するのは容易い。
だがイメージがまだ出来上がっていないはずだ。
私は教えるのが下手くそだ。視て盗みな。」
薄墨渦も美夜古から距離を取り、右手に杖を持ち姿勢を整えていた。
「あの老婆の言葉の言うことは間違ってはいない。
だがあの二人の戦いを視て盗めるもんなぞお前にはない。
というよりもできん。今回はイメージを固めることに集中しておけばいい。」
深山錦はそう言って戦闘態勢の両者から視線をそらさなかった。
「どっちが勝つんだ?」
俺は深山錦に聞いた。
「そりゃあ薄墨だ。
あいつは魔法界で5本の指に入るほど下種で、外道で、規格外に強い。」
薄墨渦、美夜古は同時に動き出す。




