58話
生体端末、聞きなれない単語だった。
「なんだ、そんな顔をしているから少し知識がないのかと思えば。」
「ああ、知らないね。
悪いがこっちは行き当たりばったりでここまで来ただけだ。」
「末恐ろしい初心者というわけだ。
普通は知ってからここに来るはずなんだがな。
生体端末っていうのはようは、
魔法使いに合った現実世界で活動するのに必要な肉体のことだ。
刻印との適合率が高く、
慣らしていけば刻印に刻まれたあらゆる神秘に適応していき扱うことが可能になっていく。」
「そんなものなんでわざわざ用意してくれるんだ。
そっちになんのメリットがある。」
「さぁ、考えたことがないな。
私はただここにいて欲しいと言われればそれを渡すだけだ。
こっちは最終的に刻印がここに戻ればそれでいいんだ。
そういう意味ではさっさと生き返って死んでほしいね。」
とんでもない言葉をひょいひょいと口にしながら彼女は言葉を続けた。
「見たところ君は本当に見習いではあるようだ。
どうする?刻印を選んで生き返るか。何もせずにここで死ぬか。」
「生き返るに決まってる。」
「そうか。」
アルファはまたつまらなさそうに手にもっていた本へ視線を戻した。
「君という魂を私は視た。
君は生き返って何をするつもりなの?
疑似的な蘇生術によって君は一度再構築され、目が覚めて流れに身を任せつつ目的を探っていたね。その都度何度も死に近づき、ギリギリのところで回避してきていた。」
「町を見た。俺だった奴が知ってた町だ。
変わってなかったんだ。本当に何も変わってないように見えた。
でもそこにいる人は変わっていて、よく見ると町は全く別のものに変わっていた。
目に映っているものだけは何も変わってない。
でもそこにいる魂を俺だった奴と俺は寂しいって感じた。
だから俺はそうなっている原因をなくしたい。
例え望まれなくてもそれをやる。決めたんだよ。」
「驚いたな、君は衣笠大の抜け殻だと思っていた。
まさかそこまでの意思を持つとはね。
それで君はどの刻印を、先人たちが残した遺産を受け継ぐ?
選り取り見取り、好きなだけ漁っていくといい。
どれも人の想像の域を出られない、人が追い求めたものだ。」




