57話
高木八重の空を被ったものはまるで俺の返しに期待している様子だった。彼女は椅子に腰かけ、貧乏ゆすりを始め俺をまじまじと見つめてきた。
「お前は一体何者だ?
身体が朽ちていく感覚がまだ残ってる。俺は本当に死んだのか?」
俺の返しがつまらなかったのか彼女の笑顔はピタッと止まった。
「質問したのはこっちが先なんだけどね。
失礼だったようだ。いいよ、教えてあげる。
私はアルファ。この”揺り籠”の番人さ。
魔法使い達の行く末をここで見届けて、彼らの成果をここに封印してる。
これでいいかい?」
アルファは面倒臭そうに自己紹介を終わらせた。床にあった1冊の本を広い、開き、俺と視線を合わせることをやめた。
「君の体に残っている感覚は異物の混入が原因だ。
どうやらその黒いのは君を嫌でも連れ戻したいようだ。
だから安心しなよ、肉体は死んでるけど、君の魂はまだ生きてる。
まぁそれもここじゃどこまで持つのか知らないけどね。」
「このままだと俺は消えるってことか?」
「そうだね。」
「俺は自分の刻印を呼び出そうとした。
そしたらこれだ!いったい何がどうなってる!?」
「ああ、そのくちだったか。なら安心しなよ。
どれでも好きなのを持っていけばいい。」
アルファは床に散らばった本を適当に指さして、視線は手に持っている本から外さなかった。
「ここにある本は同じ目的でここに来た魔法使いになろうとした者たちの遺品。
そして彼らの”刻印”でもある。」
目を疑った。耳を疑った。刻印が本で、床に無数に散らばるそれだとアルファはいう。
「一冊一冊が彼らであり、彼らが得るはずだった叡智。
ここは封印する場でもあるけど同時に保管庫なんだよ。
現実で生きる魔法使い達はここにある本を借りて神秘を行使する。
現実世界で同じ生命から得た唯一無二の肉体の主導権と引き換えにね。
だから私は管理人として本にある機能を付属させて本を貸す。」
「ある機能?」
「生体端末だよ。」




